社説:マイナカード 力ずくでは普及しない
政府は来年度から、自治体ごとのマイナンバーカード(マイナカード)の普及率に応じ、国が配る地方交付税の算定に差をつける方針だ。普及率が高い自治体を財政面で優遇する。
交付税は全国どこの自治体でも住民に一定水準の行政サービスを提供できるよう、国が配分する。財源不足を補う生命線であり、自治体が「脅し」「兵糧攻め」と反発するのは当然だ。今回の方針は国と地方は対等という地方分権にも反する。
政府は普及を「デジタル社会の基盤」と位置付け、来年3月末までにほぼ全ての国民にカードを行き渡らせることを目標とする。ただ今年6月末現在の普及率は45・3%にとどまる。
総務省は「普及率が高い自治体はデジタル化に伴う経費も多くなる」と理由を説明する。だがコスト負担の軽減ならば、補助金でも十分に対応できるはずだ。カードを普及させたいという思惑が見え見えだ。
カードの取得はあくまでも任意。政府目標達成のため、交付税で自治体に圧力をかけるのは容認できない。算定方法の詳細は示されていないが、普及率が低い自治体への交付税が少なくなるならば事実上のペナルティーといえる。交付税と絡めるのは筋違いと言わざるを得ない。
普及の遅れを巡っては総務省が先月から、取得率などの低い自治体を「重点的フォローアップ対象団体」に指定。カード申請の機会拡大や住民への広報など対策強化を要請している。これも政府の圧力といえないか。
カードの普及には申請や交付などの事務作業を担う市町村の協力が不可欠だ。交付税を人質に無理やり従わせるような手法は疑問だ。
カードの交付は2016年1月にスタート。12桁の個人番号や氏名、住所などを記載、顔写真付きでICチップを内蔵している。身分証明書として使えるほか、コンビニで住民票の写しなどの発行が受けられる。昨年10月には健康保険証としても使える「マイナ保険証」の仕組みが始まった。運転免許証などとも一体化する予定だ。
なぜ普及が進まないのか。内閣府が18年の世論調査で取得しない理由(複数回答)を尋ねたところ、「必要性が感じられない」が58%と最多。「身分証明書は他にもある」(42%)、「個人情報の漏えいが心配」(27%)、「紛失や盗難が心配」(25%)と続いた。カードの魅力が乏しい上、情報の流出に不安を感じる状況がうかがえる。
交付開始から6年半を経ても普及率が5割に満たない。国民の意識は今もそれほど変わっていないことの表れではないか。
政府はポイント付与事業などで普及促進に躍起だ。普及を図りたいのであれば、カードの必要性と情報管理体制に関して説明を尽くし、より多くの国民に納得してもらうことが何より求められる。なすべきは自治体の尻をたたくことではない。