社説:ドクターヘリ10年 関係機関、一層の連携を
県のドクターヘリが運航を始めて今年で10年となった。年間300回近い出動を重ね、救命救急体制を支える存在として定着した。県民の命を守る救急医療が今後も十分機能するよう、関係機関の一層の連携を期待したい。
県がドクターヘリを導入したのは2012年1月。岡山など5県を皮切りに01年度から全国で導入が進む中、当時県内唯一の救命救急センターを設置していた秋田赤十字病院(秋田市)を基地病院とし運航を始めた。現在は全都道府県が導入、計56機が配備されている。
医師、看護師を乗せて時速約200キロで航行。秋田赤十字病院からは30分以内に全県をカバーできる。導入により患者を病院に搬送する時間が短縮された。医師がより早い段階で治療に当たるメリットも大きい。
県ドクターヘリの今年5月までの出動実績は計2888件。転院などを除き、20年度に現場へ飛んだ175件を見ると、消防が連絡を受けてから病院搬送までの平均所要時間が68分。救急車より推定で12分早かった。運用面でも習熟が見られ、連絡を受けてから離陸までの時間も導入時より約1分短縮した。
一刻一秒を争う救命救急の現場ではいずれも小さくない数字ではないか。10年間の運用で十分な実績を積み上げてきたと言える。
課題もある。県内で指定された着陸地点は学校のグラウンドや公園など411カ所。うち冬季に常時除雪されるのは30カ所ほどに過ぎない。各消防本部が民間事業所などに常時除雪の着陸地点開設への協力を呼びかけているが、思うように増えてはいない。雪国の宿命だが、乗り越えなければならない。
県境を越えた広域的な運用もさらに進めたい。ヘリ配備は本県を含め多くの県で1機のみ。出動中に新たな要請が入っても対応できない。県境付近の現場では隣県から向かった方が機動的に対応できる場合もある。
秋田、岩手と、ドクターヘリ2機を有する青森の3県は14年にヘリ運用の広域連携協定を締結。基地病院から100キロ以内の他県市町村を出動対象とした。ただ、消防が要請できるのは原則、自県ヘリのみ。他県に要請するかどうかは、消防から連絡を受けた自県ヘリに乗る医師が判断する。
各県医師会は消防の判断で他県に出動要請できる柔軟な運用を求めている。「救命に県境はない」という前提に立ち、連携をより強めてもらいたい。
高齢化が進む本県では緊急性が高い救急事案が増えるとみられ、患者を短時間で搬送するドクターヘリの役割はますます重要になるだろう。その効果を最大限に発揮するには、各地域の患者の受け入れ体制が整っていることが欠かせない。行政と医療機関が協力し、本県の救命救急体制を維持、充実させることが求められる。