社説:タマネギの産地化 夏場の安定供給目指せ

 収益性の高いタマネギに着目し、東北全体で産地づくりを目指す取り組みが大潟村を中心に本格化している。国内主要産地での収穫が途切れる6~8月に東北産を出荷し、シェア確保を狙う。栽培技術を確立させて収量の安定化を図り、コメ依存型農業からの脱却につなげたい。

 タマネギの国内出荷量は、キャベツなどと並んでトップクラスの年間121万トン(2020年)。北海道と佐賀県、兵庫県で8割を占める。北海道は9~10月、佐賀、兵庫は3~5月が収穫期。夏場は主に中国から輸入しているのが実情だ。

 東北にはこれまで大産地はなかったが、大潟村では5年前から栽培に挑戦。現在は37ヘクタールで作付けしている。主要産地からの出荷が減る夏場に収穫でき、苗の植え付けから収穫までの作業を機械化できる点に着目したという。東北全域で取り組めば出荷時期に幅を持たせられる上、不作時の供給不足のリスクも分散できそうだ。

 中核を担う農業法人みらい共創ファーム秋田(涌井徹代表)は今月、研究機関や商社とともに活動組織を立ち上げた。気象情報などを加味して地域ごとの栽培スケジュールを自動で調整するスマート農業を試みるほか、流通・加工販売も強化し、農家や流通加工に関わる法人に広く参入を呼びかけるという。

 この活動組織は、東北の栽培面積を595ヘクタール(20年度)から700ヘクタール(25年度)に増やす目標を掲げる。新産地が形成されれば通年で国産タマネギを安定供給する体制ができる。輸入品に取って代わることで、食料自給率の向上や食料安全保障の強化にもつながると期待される。

 ただ東北での収穫期は梅雨と重なり、出荷作業が思うように進まない可能性もある。苗を植える適切なタイミングを見極めるのも習熟を要する。こうした課題を乗り越えるには、栽培経験の蓄積や技術の共有が重要で、生産者と研究機関の連携も欠かせない。活動組織の設立をきっかけに大潟村がモデル産地となり、他地域にノウハウを広めていく必要があろう。

 タマネギは今年春に価格が平年の2倍以上に高騰した。北海道産が天候不順の影響で不作となったことに加え、新型コロナウイルスの影響で中国産の入荷も減少したことなどが背景にある。東北を一大産地にする構想は、特定の産地に偏っていることで生じる価格高騰を抑える上でも重要な試みといえる。

 国内の農業従事者はこの先、大きく減少し、本県では高齢化が加速するとみられている。耕作放棄地の拡大やコメ需要の減退が懸念される中、スマート農業などを積極的に取り入れ、少ない人数でも持続可能な営農の仕組みを築くことは急務だ。

 タマネギの産地化はそうした取り組みの一つ。農業の再生や活性化を図るには、こうした新たな動きを県内で広げていくことが求められる。

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