(essay)さて、聞いて?(1)さて、桃 文:齋藤涼花

 若い人の、まだ熟しきっていない、でも大切にしている時間・感情・オピニオンを不定期で紹介するコーナーです。思いを書き、聞いてもらって、また一歩進めるように。

 ◇◇◇

 細川さんは桃を信じて、桃が生きやすいように素直に枝を伸ばす助けをしているから、ここの桃は強い。大雪にも負けていないんだ、強い。実が太れば葉も伸びる、大切な実を守るように。ここは、桃源郷から森の海に変わって八月、ほんのりと桃色を浮かべている。お日様も雨も風も雪も、土の中の微生物も雑草も、農薬も、肥料も、全部全部めぐりめぐって樹に還元されていって。

 桃は夏ひとくくりに「桃」としてお店に並ぶことが多いけれど、知ってるかな、桃にも林檎や桜桃のように愛おしい品種の家系図があること。始まりは八月初旬、「あかつき」。お日様の下に甘さとじゅるじゅるの果汁をまとって。ほんのり見えるまだら模様がまた良く育ったしるし。次には「まどか」。ウチでは明るいピンクの若い子。「陽夏妃(ようかひ)」は桃一族のhope。ずっしりと赤黒く美しい、芳醇な大人。お盆がすぎると「スウィート光黄」、ほそかわ農園で唯一の黄色い桃は名前の通りに真っ黄色の元気をくれる桃! そして、「おどろき」。私が大好きなおどろき。硬い桃、色がつくのが早いからってもぎ急ぐと「うめぐねえ、でご(大根)!」って損するぞ。待てど待てど硬い、硬く甘さが乗っていく。驚き! 果皮はぼこぼこ、張りがあってぷりっとしたお尻が愛おしい、今年は天ぷらにして食べるんだ。そうして「蟠桃(ばんとう)」、平べったいお尻は甘さの中のほろ苦さ。桃の王様は「川中島白桃」。もいでも、もいでも、たわわに実り、終わらない戦いだ。木から実が離れていくと葉の緑は深くなる。少しだけ寂しさと一緒に収穫。九月になって、「ゆうぞら」。ゆうぞらは繊維を感じる甘さに、大人っぽさ。少し憧れるな。余韻に浸りつつ、「青空むすめ」。若々しい果皮果肉が、まだ終わってないよと言ってくれているみたいで嬉しい気持ち。農園の最後に「甘甘燦燦(あまあまさんさん)」。西の方では黄色い桃みたいだけれど、ここではどこまでも紅をまとうよ。

 上品な甘さにて、桃の旬はお終い。桃の森はいつの間にか冬を迎える準備をしていた。前を向いている、私も前を向こう。寂しいおもいは一緒に持って、次は林檎。


【さいとう・すずか】2001年山形県生まれ。秋田公立美術大学に通っている。昨年1月から横手市十文字町の「ほそかわ農園」にて農業を学ぶ。1週間の半分は畑にいる。
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