社説:NPT決裂 諦めず核軍縮の道探れ

 米ニューヨークの国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は最終文書案を採択できず、決裂して閉幕した。ウクライナ侵攻を巡る記述にロシアが反対した。核軍縮に進展がない状況が続くのは、NPTの信頼を揺るがす深刻な事態といえる。

 文書採択は全会一致が原則。会議最終日になってロシアの反対で阻まれた。不採択に多くの加盟国から非難の声が上がったことをロシアは真摯(しんし)に受け止め、核保有国としての責任ある姿勢に転じるべきだ。国際社会は決裂にも諦めることなく、核軍縮を前進させる道を探り続けることが求められる。

 NPTは1970年に発効。核兵器保有を米ロ中英仏の5カ国にだけ認める代わりに核軍縮を義務付け、他国の核保有を禁じる。191カ国・地域が加盟。原則5年ごとに再検討会議で核軍縮の進展などを点検する。

 今回の会議で最大の難関となったのは、ロシアによるウクライナ侵攻の取り扱いだった。ロシアは核兵器使用をちらつかせて国際社会への威嚇を繰り返しており、問題視されて当然だ。

 ロシアはソ連解体時、ウクライナが核兵器を手放すのと引き換えに安全保障を約束。最終文書案はロシアを名指ししなかったが、この約束が守られていないことを示唆する内容だった。

 また、ロシアはウクライナ南部のザポロジエ原発を占拠。原発周辺では砲撃が相次ぎ、外部電源を一時喪失するなど、重大な事故を招きかねない状況が続く。最終文書案には、ロシアがザポロジエ原発の管理をウクライナに戻すよう促す表現があったという。

 これらの部分にロシアが反発した結果、最終文書案は採択できなくなった。前回2015年にも別の事情から文書採択に失敗しており、2回連続の決裂は52年のNPTの歴史で初。NPTの機能不全がこれ以上続くことは避けなければならない。

 最終文書案取りまとめまでに、ロシア以外の核保有国の要求も反映して数々の妥協が重ねられたことも見逃せない。非核保有国は「核軍縮に向けた数値目標や期限の設定」を求めたが、保有国は応じなかった。保有国が非保有国を核兵器で攻撃しない「消極的安全保障」に法的拘束力を持たせる表現も後退した。いずれの例も保有国のエゴがむき出しで、核軍縮の流れに逆行すると言わざるを得ない。

 「核の先制不使用」を求める記述は米英仏の要求で削除された。これに日本を含む「核の傘」の下にいる国々が同調し、批判を浴びた。核保有国、同盟国と非保有国の溝を埋める努力が必要だ。

 妥協を重ねたとはいえ、ほとんどの加盟国が採択を支持したことは重要だ。NPTが核軍縮に不可欠との認識が共有されている証しだろう。「核のない世界」実現へ、国際社会の粘り強い努力が期待される。

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