社説:岸田首相所信表明 「国難」への危機感薄い
臨時国会が召集され、岸田文雄首相は所信表明演説を行った。物価高、安全保障環境、感染症危機、エネルギー・食料危機、温暖化による気候危機などを列挙。「日本は国難とも言える状況に直面している」と述べた。それほどまでに危機的状況なら、なぜもっと早く国会を開かなかったのか理解に苦しむ。
立憲民主党など野党は憲法53条に基づき、8月中旬に臨時国会召集の要求書を衆参両院議長に提出。岸田首相が列挙した内容もその理由に盛り込まれていた。その要求には応じず約1カ月半後の召集。「国難」に対する危機感が薄いのではないか。
日本経済の再生が最優先課題であるとし、演説の約4割を物価高対策をはじめとする経済政策に充てた。目玉は高騰する電気料金の抑制対策。家計・企業の負担の増加を緩和するため「前例のない、思い切った対策を講じる」と表明した。
電気料金抑制対策の具体的な制度設計はこれからだという。ガソリンなどについては1月に石油元売り会社への補助金で価格抑制を始めている。9月には国会に諮ることなく、年末までの延長が決められた。原油価格が低落傾向となっても補助は縮小されず、総額3兆円を超えてなお終わりが見えない。
ガソリン価格抑制は一律で、本来手厚くすべき所へ十分行き届いているのか疑問がある。緊急対策のはずが長期間になり、総額が膨れ上がっている。その財源は国債発行だ。大盤振る舞いのツケを将来、国民が負うことを忘れてはならない。
物価高に拍車をかけている急激な円安に関しては対策を打ち出す気配はない。むしろ「円安のメリットを最大限に引き出す」とプラス面に目を向ける主張を繰り広げた。
野党側は国会召集を求める理由として、安倍晋三元首相の国葬問題や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党議員の関係解明なども挙げていた。両問題への岸田首相の言及は物足りないほどわずかだった。
1年前の発足以来、岸田内閣は共同通信の世論調査で高支持率を維持してきたが、先月は不支持が46・5%と初めて支持を上回った。要因として挙げられるのが国葬と旧統一教会の二つの問題だ。そこにしっかり答えないのでは岸田首相が繰り返す「丁寧な説明」に反しよう。
岸田首相は、直面する難局は「皆が力を合わせれば必ず乗り越えられる」と述べた。事例として福島県の東日本大震災被災地復興を挙げた。帰還困難区域への住民帰還などが根拠。だが東京電力福島第1原発の廃炉作業は進まず、処理水問題も全面解決とは言い難い。住民の実感と一致しているのか疑問だ。
国会論戦はあすから本格化する。閉会中のように予備費の充当で思うがままの政策遂行とはいかない。論戦では国民の胸にしっかり届くような岸田首相の誠意ある答弁を望みたい。