社説:原発運転期間 延長方針、政府は説明を

 原子力規制委員会の山中伸介委員長は原発の運転期間を原則40年、最長60年とするルールが原子炉等規制法から削除される見通しを示した。

 岸田政権は電力の安定供給や脱炭素促進などに向け、運転期間延長を含めて原発を最大限活用する方針だ。運転期間は経済産業省が所管する別の法律で定め直す構えで、規制委はこれを容認した。60年を超える運転への道が開かれる可能性がある。

 現行ルールは東京電力福島第1原発事故を受け、2012年に作られた。当時の民主党政権は「40年を期限に基本的に廃炉にする。政治判断が入り込む余地はない」と厳格運用を強調。規制委が認めれば1回に限り最長20年の延長を可能とした。国民は原発の安全性を保つためのルールと認識していたはずだ。そのルールを変えるのならば、政府は国民の理解が進むよう説明を尽くさなければならない。

 それまで原発の運転期間に法令上の制限はなかった。長期運転すると放射線で原子炉圧力容器がもろくなり、40年はその目安とされた。最長20年延長は米国の制度などを参考にした。

 経産省の方針は一昨日の規制委定例会合で同省担当者から伝えられた。これを受け規制委は60年を超えて運転した場合の安全確認の在り方などについて年末までに検討するという。

 規制委は、運転期間の延長は「政策判断」だとして意見を述べない立場を取る。それでいいのだろうか。山中委員長は「経年劣化が進めば進むほど、規制基準に適合するかどうかの立証は困難になる」と指摘する。基準適合を立証できない原発の運転は認められないはずだ。それでも60年超の運転を容認することについて、規制当局としての見解を示すべきではないか。

 原発事故は規制当局だった経産省原子力安全・保安院と東電が、なれ合いの中で地震や津波対策を怠ったことが一因とされる。その反省に立ち、推進と規制を分離するために規制委が12年に発足した経緯がある。それだけに規制委が、原発利用を進めようとする側の同省の方針をすんなり容認したことに驚く。

 規制委は老朽化した原発の安全性が維持されているかどうかを原発ごとに確認する仕組みを整えるという。山中委員長は「厳正な規制がゆがめられることは決してないと断言できる」と話す。その言葉を実践しなければならない。

 ウクライナ危機でエネルギー事情は一変。脱炭素化に向けた世界的な流れもある。こうした状況を背景に岸田文雄首相は今年8月、運転期間延長を検討する方針を突如示した。だがその後、詳細な説明や議論はない。

 福島県内には今も帰還困難区域があり、廃炉の道筋も不透明だ。原発の安全性に対する国民の懸念は依然根強い。岸田首相は開会中の臨時国会で、今後のエネルギー政策をしっかりと語るべきだ。

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