母子の思いすれ違う混乱絶望クリスマス 映画「サイレント・ナイト」監督&息子

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カミラ・グリフィン監督(左)と息子の俳優ローマン・グリフィン・デイビス
カミラ・グリフィン監督(左)と息子の俳優ローマン・グリフィン・デイビス

 あらゆる生物を死滅させる毒ガスの脅威が迫る英国を舞台に、人生最後のクリスマスを祝う人々の混乱と絶望を描いた映画「サイレント・ナイト」が11月18日公開。脚本も手がけたカミラ・グリフィン監督は「危機的な状況で、大事な人をどうすれば守れるか、改めて考えてみてほしい」と語る。

 主人公はキーラ・ナイトレイ演じるネル。夫や3人の息子、友人家族と共にパーティーを楽しんだ後、全員で政府から配られた自殺用の薬を飲み「苦痛のない死」を迎える覚悟を決めている。

 大人たちは子どもに真実を告げないまま時をやり過ごそうとする。「残酷な現実から子どもを守りたいという親心の表れですが、子どもにしてみればひどい裏切り。どちらの気持ちも分かるからこそ、難しい問題です」とグリフィン監督。やがてネルの息子アートが計画に気付き、両親に反発して家を飛び出す。

 アートを演じたのは、グリフィン監督の息子で俳優のローマン・グリフィン・デイビス。親の言うなりではなく、さまざまな意見に耳を傾けようとするアートについて「他人を大事にできる、共感的な人。僕も彼のようになりたい」と話す。

 もしも本当に「人類最後の夜」が訪れたら「その時は家族そろって、子どもがなるべく安心できる環境をつくりたい」とグリフィン監督。一方のローマンは「独りでやりたいことをして過ごす。お母さんにはメッセージを残すよ」とクールに答え、母親を驚かせた。



 ※ここからはグリフィン監督・ローマン親子のプロフィルと、インタビューの大部分をお届けします。メランコリックな母とクールな息子の愉快なやり取りをお楽しみください。



 カミラ・グリフィン監督 カメラマンを志して1990年代半ばから幾つかの商業映画に関わった後、本格的に映画を学ぶ。2003年以降、計5本の短編映画を発表し、本作で長編監督デビュー。



 ローマン・グリフィン・デイビス 2007年ロンドン生まれ。19年の映画「ジョジョ・ラビット」で映画初出演にして初主演。戦時下のドイツでユダヤ人少女と出会う繊細な少年を演じ、高い評価を集めた。今作で共演したハーディとギルビーは双子の弟。

   ×   ×

▼記者:親子で一つの作品に取り組むというのは誰もができる経験ではないと思います。お二人にとってどんな現場になりましたか。



★グリフィン監督:私はすごく楽しかったです。ローマンは9歳の頃からずっと「俳優になりたい」と私や夫(撮影監督のベン・デイビス)に言っていたんですね。なので、デビュー作になった「ジョジョ・ラビット」の2年ほど前から(自主的に)ビデオを作ったりして、共に仕事をする関係を築いていました。「ジョジョ・ラビット」の現場で私が学んだのは、彼には生まれながらの才能があって、そのシーンを勘で捉えられるということ。なので、私はあまり邪魔しない方がいいということも分かっていました。

 非常に才能のある役者がたまたま自分の息子で、この役にぴったりだったので今回、一緒に働いたわけですが、他の子どもをキャスティングすると撮影期間などの条件が大変になるという事情もありました。自分の子どもたちを使うことで、他の人の子どもを「殺さずに」済みましたしね。



▼記者:ローマン君へ。お母様の演技指導は厳しかったですか?



■ローマン:母の方が厳しかったと言いたいけど、同じくらいかな。うちの母は何年もの間、映画を監督したいといって脚本を書いたりしていたので、やっと実現して彼女はすごく幸せだと思う。たくさんの人を演出しなければいけなかったから大変だったと思うけど、予想以上にすごく良くやったんじゃないかな。母のことをすごく誇りに思うし、(共演した)兄弟たちのことも誇りに思います。



▼記者:これ以上ないブラックなクリスマス映画となりましたが、着想のきっかけは?



★グリフィン監督:私はもともとメランコリックなところがあって、常に何となく絶望感、不安感がある。特に初めて子どもを産んだとき「車が事故を起こしたらどうしよう」「津波が来たらどうしよう」と、日々のこと以外の大きな事件、存在に関わるような危機が起こったときに子どもを守れないことが怖くて仕方なかった、というのが感情的な土台としてあります。

 ある日、子どもたちが「戦火の馬」という映画を見て「核戦争が起こったらどうなる?」と言ってきて、私はあまりにも深刻な話なので軽くしようとして「手術の時にもらった鎮静剤があるから、みんなでそれを飲んでベッドで抱き合って眠ればいいじゃない」と、要するに「自殺しましょう」みたいなことを言ったんですね。あくまでジョークのつもりだったんですけど、子どもたちが「そんなの嫌だよ!」と反発してきたのもアイデアの源になりました。もう一つ、お金を持ってるお上品な人たちが生き延びようと必死になっているところを見せるのも面白いかなと。まあ、これは書かないほうがいいかしら(笑)



■ローマン:うちの母ってこういう人なんです。



★グリフィン監督:英国における特権的な階級に対する屈折した思いみたいなものもありました。英国の中流階級の人というのは、何でもできるし、何でも許されているから、間違いに関してあまり意識的でない。そういう中流階級の人たち、私自身もその一員ではあるんだけど、その自分の属している階級をちょっと探ってみたいという気持ちがありました。それに、これはローマンが言っていたことですが、典型的な中流階級の人って、子どもを寄宿舎に送って、寄宿舎が休みになると今度はキャンプとかクリケットに送って、全然子どもを見ない。子どもは静かに存在だけしていればいい。声が聞こえてはいけない、みたいなところがあるので、そこも掘り下げて描いてみたいと思いました。



▼記者:お母様から「次の仕事、クリスマスにサンタじゃなくて毒ガスが来る映画はどう?」と言われた時はどう感じましたか?



■ローマン:母は暗い映画をいっぱい見ていたから別に驚きはしなかったけど、彼女はコメディーを書くか、すごくダークな映画を書くか、どっちかだったので、両方合わせたのは面白いなと思った。あとは作品の中で子どもや友人まで殺してしまったところも珍しいというか、いつもと違うなと思いました。



★グリフィン監督:この映画のテーマはいろいろありますが、その中で一番大切だと思うのは、キーラ・ナイトレイ演じる母親が子どものことを守ろうとしている。けれどもその「守ろう」っていうのはどういうことなのか。子どもにしてみれば非常にひどい体験であるということで、これは私が子どものころの感じたことと、親として考えたことの両方を描いているんです。



▼記者:人生の重大な岐路であればあるほど子ども自身の意思はそっちのけになりがち、というのは誰もが身に覚えのあることだと思います。



■グリフィン監督 それの非常に賢い隠喩みたいなものが、この映画でやっていること。「ゲームあげるよ」「ケーキあげるよ」と、子どもが喜びそうなことをしてあげるんだけど、真実は話さないんですよね。忙しくしてそこから気をそらせようとすることを、私たち大人はいつもやっていると思う。



▼記者:子どもの立場としては、自分が失敗しそうな時は親に止めてほしいと思いますか?



★ローマン:正直に言うと、大人って結構バカなんですよね。本当は賢いのに、いろいろ考え過ぎてバカになっちゃう。だから僕らの方が賢い、と子どもはみんな思っているんじゃないかな。僕だけじゃなくて。だから彼らの意見は聞かないほうがいいと思っている。聞きたくないって気持ちもある。聞いちゃうと、どうしても気になるから。



▼記者:アートの行動はご自身にとって共感できるものでしたか?



■ローマン:アートはすごく共感的な人。他人のことをすごく大事に思っている。僕も彼のようになろうとしてはいるけど、彼ほど良い人ではないです。僕は二つの映画をやって、両方ともある種のモラル、倫理的な実験をしているような役だった。一つはナチスで、一つはサセックスの子ども。どちらも自分の中に幾つかの対立する感情があるような役で、演じていてすごく新鮮な気持ちがしました。



▼記者:作中でネル夫妻は「最後の夜」に学生時代の友人家族を何人も招いてパーティーを開いていますが、個人的には「ちょっと人が多すぎる」と感じました。



★グリフィン監督:おっしゃる通り、親密でいたいと考えるならあまりにも人数が多すぎる。つまり彼女は親密でありたくない、たくさんの人を呼んで、真実を避けたいと思っていたということなんだと思います。



▼記者:ご自身はもしも「人類最後の夜」がやってくることになったら、誰と過ごしたいですか?



★グリフィン監督:私なら家族だけで、子どもにはできるだけ安全に過ごさせたいと思います。



▼記者:ローマン君はどう? 友達と一緒にいる方が良かったりする?



■ローマン:僕は1人で過ごしたいな。



★グリフィン監督:まあ!



■ローマン:やりたかったことを1人でやって過ごすと思う。



★グリフィン監督:じゃあ私はどうするの?



■ローマン:メモでも残しておくよ。お母さんは終末の日にはきっと悲劇の女王になっちゃうから、あまり面白くないし、一緒にいると大変だと思う。



★グリフィン監督:何てこと。ひどいと思いません?



▼記者:そこは終末までに親子でよく話し合っていただいて…最後に、日本の観客にメッセージをお願いします。



■ローマン:この映画を楽しんでくれたらうれしいです。意見を持つのはいいことだと思うので、映画を見て、自分なりの考えを話し合ってほしいです。



★グリフィン監督:時間を取ってこの映画を見てくれてありがとうございます。その場にいて握手できないのがとても残念ですが、この映画を見ていろいろな話をしてください。

(取材・文 共同通信=高田麻美)

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