社説:防衛費GDP2% 「増額ありき」は無責任
岸田文雄首相は防衛費増額を関係閣僚に指示した。2027年度に国内総生産(GDP)比2%の予算確保を目指す。従来の2倍の規模で、新たに5兆円程度の財源が必要になると見込まれる。
だが増額分の防衛費の具体的な使途や増額に要する恒久財源は明示されていない。「増額ありき」ともいえる姿勢は拙速で無責任だ。求められるのは防衛の在り方について国会が幅広く丁寧な議論を重ね、国民の理解を得ることだ。
防衛費増額方針は、政府の有識者会議の報告書を受けた対応。報告書は財源に関し「国民全体の負担」が必要として増税を提起したが、具体的税目を示さなかった。
岸田首相は防衛費を5年間で段階的に増やす方針。23年度の財源確保策としては、厚生労働省所管の独立行政法人や外国為替介入に備える特別会計の剰余金の活用を検討する。
だが剰余金をかき集めても一時しのぎに過ぎない。岸田首相は27年度以降も防衛力の維持、強化が必要としている。GDP比2%を維持するなら、安定した財源が不可欠なはずだ。
岸田首相は恒久財源確保策について、年末に結論を出す方針を示した。与党の税制調査会では法人税や所得税の増税が取り沙汰されている。
実際に増税となった場合、経済がコロナ禍から回復途上にあり物価高も続く中で、景気を急速に冷やす恐れがある。消費税の税率アップを巡っては紆余(うよ)曲折があったことを振り返れば、増税を年末までに決め、近い将来に実行するのは至難の業ではないか。その意味でも「増額ありき」の姿勢は疑問だ。
ただし、防衛費増額を強く求める自民党の国防族や保守派から増税阻止の声が高まっているのは理解に苦しむ。赤字国債発行や財源論先送りを主張する声まであるという。
日本は既に国債残高が1千兆円を超え、主要国では最悪の財政状況にある。防衛費を巨額の国債発行に依存する考え方は無責任極まりない。
中国や北朝鮮の軍事的脅威が高まる中、防衛の在り方を見直す必要は否定できない。だが日本は専守防衛を原則とし、防衛費は長年GDP比1%程度としてきた。2%への引き上げは防衛政策の大転換というべきだ。
有識者会議報告書は、防衛力の抜本強化策として相手国のミサイル発射拠点を攻撃する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有などを要求する。反撃能力が専守防衛と矛盾しないか、かえって東アジアの緊張を高めないかなど懸念される問題は多い。
高齢化の進展に伴う社会保障費の増大などにより厳しい財政運営が続く中、防衛費の大幅増額を進めることには賛否が分かれるだろう。多様な論点を巡り、有識者会議や与党だけでなく国会の場で、与野党が議論を深めることが欠かせない。