社説:海産物の異変 新たな魚種、積極活用を
海水温上昇に伴い、国内で取れる魚介類が様変わりしつつある。本県でもムラサキウニやアマダイなど南方系の“新顔”が相次いで確認されている。海洋環境にどれだけの異変が生じているかを早急に分析し、影響緩和に努めなくてはならない。併せて、水揚げが増えた新たな海産物を積極的に消費・活用する取り組みを広め、漁業振興につなげる必要がある。
気象庁のデータによると、昨年までの約100年間で、本県沿岸を含む日本海中部の海面水温は平均で1・80度上昇した。日本近海全体の1・19度を上回るペースで推移しており、気候変動の影響がより顕著だ。1度の上昇は陸の10度前後の上昇に相当するとも言われる。海で進行する温暖化を深刻に受け止めなくてはならない。
共同通信が実施した全国調査では、気候変動により漁獲量などに影響が生じたとみられる水産物が60品目以上に上ることが判明。長く親しまれてきた魚種の漁獲量が減る一方、暖水系の魚種の水揚げが増えるケースが相次いでいるという。
本県でもタイ類、アマダイ類、ウニ類で異変が起きている。県水産振興センターによると、キダイの漁獲量は2021年に5・6トンに上り、11年からの10年間で19倍に急増。アカアマダイも4倍近い114・2トンに伸びた。ウニ類は14年に、それまで珍しかった暖水系のムラサキウニが増え、在来のキタムラサキウニが減っていることが確認された。産卵期である夏場の高水温がムラサキウニの増加と生息域の拡大につながったと考えられている。
県民魚ハタハタが近年取れなくなっているのも気がかりだ。15年おきに資源量が増減する元々の周期変動に加え、海水温の変化が不漁につながっている可能性が指摘されている。
モニタリング調査などによりこうした変化の一端が浮かび上がってきたものの、現状では研究が不足し、未解明の部分が多い。全体像が見えていないため、危機の度合いを的確に把握できているとは言い難い。
魚介類の移動範囲が広範に及ぶことから、自治体ごとの調査で動向を把握するのは極めて困難だ。国が主導して広域的なデータを取りまとめる調査研究が欠かせない。詳細な分析や研究に乗り出さなければ、漁獲量の推移を予測できず、影響緩和策を講じることもできない。
加えて重要なのは、海産物の変化に対応していくため、漁獲量が急増した魚を積極活用することだ。県外ではブリやサワラなどを干物や燻製(くんせい)に加工する動きが活発化している。本県でも、近年よく取れるアマダイなどを利用できる余地がありそうだ。アマダイは関西方面で高級魚として珍重され、高値で取引される。本県を新たな産地として発信するとともに、加工品開発にも挑み、水産業の持続に向けた取り組みを進展させたい。