過去が恋しくなるもの。確かに届いたあの手紙が、奥からやっと出てきたら。詩人・最果タヒさんの連載「きょうの枕草子」④
清少納言は、最果さんが「百人一首」の歌人の中で、友のように惹かれた人だと言います。「枕草子」現代語訳、第4回は「第二七段 過ぎにしかた恋しきもの」。
最果タヒ「きょうの枕草子」④
清少納言「枕草子」
現代語訳:最果タヒ
絵:矢野恵司

【第二七段】
過ぎにしかた恋しきもの 枯れたる葵(あふひ)。雛(ひひな)あそびの調度(てうど)。
二藍(ふたあゐ)・葡萄染(ゑびぞめ)などのさいでの、おしへされて草子(そうし)の中などにありける、見つけたる。
又、折からあはれなりし人の文(ふみ)、雨など降り、つれづれなる日さがし出(いで)たる。
去年(こぞ)のかはほり。
●現代語訳
過去が恋しくなるもの。
枯れてしまった葵。
雛人形、それからその雛道具。
ふと本を開くと、二藍や葡萄染の端切れが挟まっているとき。折れたところはすっかりつぶれて平たくなっていた。
もらったあの日、私の心に確かに届いたあの手紙が、雨が降り、ぼんやりと過ごすしかないような日に、奥からやっと出てきたら。
去年の、夏のための扇。
【さいはて・たひ】詩人。最新詩集に『さっきまでは薔薇だったぼく』、『グッドモーニング』で中原中也賞、『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は映画化された。『千年後の百人一首』で百首の現代語訳で注目され、エッセイ集に『百人一首という感情』。小説・エッセイ多数。
【やの・けいじ】イラストレーター。東京芸術大学彫刻科卒業、同大学院美術解剖学研究室修了。任天堂でデザイナーとして勤務後、イラストレーターに。主な仕事に、資生堂プロモーションDM、中村佳穂シングルジャケット、劇団ロロのチラシビジュアル、三井のリハウスの広告イラストなど。
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