社説:ニホンザリガニ 大館の「南限」を守ろう

 大館市は、ニホンザリガニの南限の生息地として国の天然記念物に指定されている市内の水路近くで、人工生息地の拡張を進めている。2019年度に設けた1カ所目に続き、本年度から2カ所目の整備に着手。24年度完成の予定だ。保護と繁殖につなげ、南限を守る取り組みとして注目される。

 ニホンザリガニは北海道と北東北3県で確認されている体長5~6センチの日本の固有種。水温が低くきれいな水路などにすむが、水質汚染や外来種のアメリカザリガニとの競合によって個体数が減少。環境省レッドリスト2020の絶滅危惧2類(絶滅の危険が増大している種)に分類されている。今月20日には販売目的の捕獲などを禁じる政令が閣議決定された。来年1月11日に施行される。

 大館市教育委員会の調査報告書(17年発行)によると、ニホンザリガニは江戸中期にはいたとされる。水路が天然記念物に指定されたのは1934年。周辺では60年代以降の宅地化や河川工事によって生息地が狭まった。現在、指定地での生息は確認されていない。

 報告書は序文で「目先の開発や利益のためニホンザリガニを追い詰めてきた」と反省し、再び増えるよう手を尽くすとした。人工生息地拡張がその一策となることを望みたい。

 1カ所目の人工生息地では約50平方メートルの範囲に長さ約10メートルの水路を造り、周囲をフェンスで覆った。今年まで3年続けて30匹前後が確認され、良好な生息環境が維持されているという。

 2カ所目は約1200平方メートルに50メートル余りの水路を設ける。進行状況は有識者でつくる生息地再生委員会が確認する。規模を拡大しても同様の成果を得られるよう環境を整えてほしい。

 繁殖に向けた生息地の保全では適切な環境づくりに加え、市民の意識醸成も重要だ。2016年に大館鳳鳴高校の学校祭来場者に行ったアンケートでは、天然記念物のニホンザリガニ生息地が市内にあることを知っている人の割合は46%だった。貴重な生息地が身近にあることを認識し、保護の意識を高めてもらうことが大切だ。

 市内の中学校や高校の一部はニホンザリガニ保護に取り組んでいる。例えば鳳鳴高生物部は今年、大館郷土博物館が開いた小学生向けの科学教室でザリガニの固有種と外来種について講話した。東北大が展開する科学講座のブログでニホンザリガニの生態を紹介した生物部員もいる。若い世代が意欲的に活動しているのは頼もしいことだ。

 飼育展示を行っている同博物館は種の希少性の周知と併せ、生息地拡張の意義をアピールする役目を担う。生息地が4道県に限られるだけに、該当する自治体や研究・飼育施設間の連携強化も検討すべきだろう。個体数を増やすための大館市の取り組みが、他の生息地の参考事例となることを期待したい。

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