社説:川連漆器、販路開拓 海外展開、継承の道探れ
伝統工芸品・川連漆器は湯沢市川連地区で800年にわたり受け継がれてきた。漆器の使われ方や使う人の価値観は多様化。生活様式の変化に伴い漆器の市場は縮小が進んでいる。
危機感を抱いた経営者や職人らが海外販路の開拓に取り組んでいる。ニーズの変化に対応しながら伝統産業を次代へとつなげる取り組みが求められる。
川連漆器は鎌倉時代初期に始まったとされ、現代まで脈々と受け継がれてきた。堅牢(けんろう)で実用的な器として親しまれ、地域の主要産業となったが、近年は厳しい状況にさらされている。
安価なプラスチック製品の登場や販売形態の変化などに伴い需要は低迷。生産額は最盛期に年間15億円を上回っていたとされるが、2015年は10億円余りに減少。ここ数年は10億円を下回る状況が続く。
職人の高齢化や後継者不足にも直面する。職人を含む従事者は約20年前には600人を超えていたが、今は200人程度。伝統産業を守るには経済的な面も含め、職人が安心して技能を発揮できる環境が重要だ。
こうした危機感から経営者や職人、県漆器工業協同組合は海外販路の開拓に乗り出してきた。00年以降、モナコやフランス、スイス、英国など欧州に加え、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアなど中東諸国で実績を上げてきた。
とりわけ富裕層や王室向けに注力。日本人コーディネーターと連携し、これまでモナコ公に沈金の技法で名入れした小皿を、ドバイの王室には盛り合わせ皿を納めたという。漆器の良さを一層海外にPRし、新たな需要喚起へとつなげたい。
産地を守る取り組みも進められている。漆器産業に欠かせない漆だが、国産は約3%で、ほぼ全てを中国産に頼っているという。このため、組合は16年から市内で漆の木の植樹を行い、漆の安定確保を目指している。地元産の漆で漆器を制作するようになれば、日本を代表する産地として新たなアピールポイントになるだろう。
漆器は大量生産ではない。環境に優しい天然素材を用いて一つ一つ手作業で丁寧に作り上げられる。漆を塗り直せば新品同様に生まれ変わるので、材料と職人の手があれば修繕して長く使い続けることができる。
SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、再評価されるべきだと言えるだろう。天然漆には「抗菌・殺菌作用がある」との研究報告もあり、コロナ禍が続く中、環境への優しさと合わせて売り込みを強めたい。
川連漆器に限らず伝統工芸品は、地域の生活の中で生まれ、長年大切に継承されてきた。伝統の技を次世代へとつなぐ人材を確保し育成できる環境を整えるには経営者や組合、職人らの努力だけではなく、消費者側が支える意識も大切だろう。伝統工芸品の魅力をいま一度見つめ直したい。