社説:通常国会開幕 具体策明示、首相の責任
通常国会が開幕し、岸田文雄首相が施政方針演説を行った。防衛力を抜本的に強化する決意を強調したが、その財源を巡り、昨年末に自ら表明した「増税」を明言しなかったのは理解に苦しむ。最重要とする少子化対策については6月までに大枠を示すとしただけだった。
防衛力や少子化対策などで従来方針からの転換を図ろうとする岸田首相にとって、今国会は自らの考えを国民に理解してもらう機会。25日から始まる代表質問や予算委員会の場で、決断の根拠や具体策、財源などを明らかにするのが首相の責任だ。
今国会の最大の焦点は2023~27年度の5年間で約43兆円を投じる防衛力強化の是非と財源確保の在り方だ。岸田首相はロシアのウクライナ侵攻などに触れ、国際平和秩序が弱体化しているとの認識を示し、防衛力強化の必要性を強調。「専守防衛」や「平和国家」としての歩みに変わりはないとした。
昨年12月に改定した国家安全保障戦略では反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を決定した。他国領域のミサイル基地などを破壊可能な米国製巡航ミサイルを導入することが本当に抑止力として有効なのか、保有がかえって地域の緊張を高め、軍拡競争を招かないかなど疑問は多い。
23年度の防衛費は前年度から1兆4千億円増え、過去最大の6兆8千億円。防衛費増額初年度の当初予算案であり、今後の防衛力の在り方を含め議論を尽くすことが求められる。
岸田首相は防衛費を巡り、27年度以降も毎年度4兆円の新たな安定財源が必要と主張。歳出改革などの努力をしても依然不足する約1兆円は将来世代に先送りしないと強調した。だが自民党内の異論に配慮してか、増税については触れなかった。
歳出改革などを行っても、恒久的に数兆円規模の財源を確保できるものではないだろう。国民に約束した額を捻出できなければ、増税規模がさらに大きくなる懸念もある。岸田首相は増税について説明責任を果たすことが求められる。
少子化対策では、将来的に子ども・子育て関連予算の倍増を目指すとしたが、具体的な説明を欠いた。今春発足するこども家庭庁の23年度当初予算案は4兆8100億円。厚生労働省と内閣府を合わせた22年度関連予算と比べ約1200億円の上積みにとどまる。倍増にはさらに4兆円超の財源が必要だ。
防衛費と少子化対策予算の両方をどうやって倍増させるのか。確かな見通しを示さなければならない。
論点は他にも山積している。物価高対応や賃上げ促進策は喫緊の課題だ。原発への依存度低減から積極活用への転換についても議論を深める必要がある。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治家の関係は不透明なまま。岸田首相は自民総裁として党内の実態把握を進め、国民の疑念を払拭すべきだ。