(essay)さて、聞いて?(5)獅子舞生息可能性都市 文:稲村行真

連載:ハラカラ 第41号 Jan 2023

 若い人の、まだ熟しきっていない、でも大切にしている時間・感情・オピニオンを不定期で紹介するコーナーです。思いを書き、聞いてもらって、また一歩進めるように。

 ◇◇◇

 獅子舞の生息のため空間や時間の余白、他人への寛容さなどを探る。僕はこの試みを獣の住処(すみか)を探す感覚で「獅子舞生息可能性都市」と呼ぶ。

 昨今、祭りの中止が相次ぎ、獅子舞が見られないもどかしさを感じてきた。その代わり、町を散歩する度にその地域に棲(す)む獅子舞を想像する楽しみが出来た。しかし、想像するだけでは物足りない。そこで昨年1月、秋田公立美術大学主催の複合芸術ピクニックという企画に参加した時に、秋田駅周辺を対象とする獅子舞を創作してみた。

 秋田魁新報の紙面や高清水と書かれた段ボールなど、地域で採取した素材を使って獅子舞を作り、秋田駅周辺を舞い歩いた。たちまち自らの身体が環境によって操られ、県立美術館から西武秋田店辺りに吸い寄せられていった。昨今秋田駅周辺の住まいや商業施設はより高く大きく集中的に設計されつつあるが、一部のエリアではまだ獅子舞の生息環境が残っているようだ。道中おばあさんが頭を噛(か)んでほしいと頼んできたり、女子高生がキャーと叫んで逃げたりとさまざまな反応が返ってきた。地域の廃材が獅子舞として再び命を宿し、土地の性質を可視化すると共に人々に何かを促したのだ。

 この秋田での実践をきっかけに獅子舞に変体する楽しみを覚え、工藤結依、船山哲郎と共に3人組の獅子舞ユニット「獅子の歯ブラシ」を結成。東京、徳島、岩手など、さまざまな土地を巡り始めた。僕らの創る獅子舞は、毎年地域の祭りに登場する獅子舞とは異なり、日時や舞場を公表しない。獅子舞という伝統的で神聖な行為を個人的な実践に解放し、獅子舞を最初に始めた人を想像しながら、自由で神出鬼没に舞い歩く。その先に地域の性質を再考する新しいフレームワークを創造する。


●いなむら・ゆきまさ
1994年生まれ、千葉県出身。民俗芸能に関する執筆、研究、作品制作などを実施。日本全国300件以上の獅子舞を取材してきた。3人組ユニット「獅子の歯ブラシ」を結成して、さまざまな土地を獅子舞の姿で舞い歩いている。

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