【東京舞台さんぽ】「マスカレード・ホテル」 仮面着けた客守る装置、日本橋のホテル
東野圭吾さんのミステリー小説「マスカレード・ホテル」は、一流ホテルで人々が繰り広げるドラマと、殺人事件を巡る手に汗握る展開が魅力だ。映画化され、潜入捜査する刑事、新田浩介を木村拓哉さんが演じた。小説のモデルになったのが東京・日本橋にある「ロイヤルパークホテル」だ。(共同通信=中井陽)
小説では新田と共に事件に立ち向かうホテルのフロントクラーク(接客担当)山岸尚美ら、プロ意識にあふれたスタッフが物語を彩る。地元の人々から「ロイパさん」と親しまれるこのホテルでも、それは同じだ。
エントランスでは、35年間ドアマン一筋という大島国裕さん(59)が制服姿でほほ笑んでいた。車で到着した来客を館内に案内するまでの十数秒で、自家用車ならナンバー、タクシーならメーターを確認。表情などから要望を瞬時に見て取ってホテル内に連絡する。「お顔やお名前は忘れません。サービスの最前線にいるのが好きですね」
新田をホテルマンに仕立てるため、厳しく指導する山岸。反発し合う2人は、やがて協力して事件に挑む。実際、フロントデスクで、にこやかに接客する女性スタッフが、山岸に重なった。
「密談に最適だ」と新田が言ったブライダルコーナーには居心地の良さそうな椅子が並び、所轄署の刑事と新田が情報交換したバーには英国の雰囲気がある。ホテルは、まるで小さな街だ。
作家も取材したバックヤードは、宴会場など優雅な「表舞台」を囲むように配されている。スタッフ専用エレベーターや休憩所、クリーニング室―。表からドア1枚隔てた空間で奔走する、新田らの姿を思い描いた。
秘密を抱えた客たちをいぶかしむ新田に山岸は、その仮面をはがそうと思ってはならない、と言う。ホテルは、仮の姿を装った客たちを、丁重に守る舞台装置。だからこそ、極上のミステリーと相性が良い。
【メモ】ロビーのシャンデリアは照明デザイナーの石井幹子さんがデザイン。