【東京舞台さんぽ】「万引き家族」 気持ち通い合う日常の場、三ノ輪
都会の片隅で暮らす血縁のない一家の日常を描き、フランスのカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した是枝裕和監督の映画「万引き家族」。一家が暮らす平屋の近所として登場するのが、東京都荒川区の商店街「ジョイフル三の輪」だ。都電荒川線三ノ輪橋停留場の前から続く。
映画は、リリー・フランキーさんが演じる父親が、息子とスーパーで万引するシーンから始まる。一家は3世代で、祖母(樹木希林さん)の年金を頼りに暮らす。万引は生活のためだった。
「仕事」を成し遂げた父子は商店街へ。熱々のコロッケを買ったのが「肉の冨士屋」だ。同店は国産の牛や豚を一頭丸ごと仕入れる。実際にはコロッケは販売しておらず、撮影では近隣の鶏肉総菜店「とりふじ」の物が使われたという。
商店街は、天井が開閉式で、空が見えるアーケードが約400メートル続く。店先には、野菜や果物、おかず、和菓子などが並んでいる。「何にしましょう?」「久しぶり!」。顔を見ながらのやりとりで声が弾む。
商店街は、停留場の開設を受け1919年ごろから形成された。人々のライフスタイルが変わり各地の商店街が苦戦する中、ここは家族連れや近所の人が変わらず訪れている。昭和レトロな雰囲気などが注目され、ロケ地としても人気だ。
映画で一家は鍋を囲んだり、海水浴に行ったりと、ささやかな楽しみを重ねる。商店街は「家族」としての関係を深める、何げない日常の場として描かれた。息子は、母親(安藤サクラさん)とラムネを飲みながら歩く時に尋ねる。「お母さん」と呼ばれるとうれしいか、と。
共に暮らし、気持ちが通い合った日々は、かけがえのないつながりを生む。アーケード屋上からは、家々の屋根が連なる先に東京スカイツリーが見えた。
【メモ】かつて銭湯にあった「中島弁財天」の像が、今も祭られている。