社説:福島原発事故12年 処理水放出、当面凍結を

 東京電力福島第1原発事故から12年。政府と東電は2041~51年の廃炉を目指す。しかし最難関である溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しは当初計画より2年以上遅れて今年10月以降に着手する予定だ。廃炉への道筋は描けていない。目標達成に向け、政府と東電は全力を挙げなければならない。

 間近に迫った課題は放射性物質トリチウムを含む「処理水」の海洋放出だ。政府は夏ごろまでの開始を見込むが、反対の声は少なくない。

 第1原発ではさまざまな放射性物質を含む汚染水が1日約100トン発生。浄化処理しても技術的にトリチウムは除去できない。敷地内の千基余りのタンクで保管する処理水は、2月16日時点で約132万トン。夏から秋ごろに満杯になるという。

 処理水に関して政府と東電は15年、「関係者の理解なしにはいかなる処分もしない」と地元漁業関係者と約束した。全国漁業協同組合連合会は一貫して放出に反対している。それにもかかわらず、政府が21年に海洋放出を決定したのは不誠実だ。

 東電はタンクが林立した状態では今後取り出すデブリの保管施設などの敷地が確保できず、廃炉作業に支障が出ると説明する。事情はあるにせよ、なし崩し的な海洋放出は許されない。

 処理水は大量の海水で希釈しトリチウム濃度を国基準の40分の1未満にして流す予定。トリチウムは体内に蓄積されず、健康への影響は小さいとされる。福島の沿岸漁業の水揚げは徐々に増えているが、事故前の2割ほどにとどまる。回復途上での放出で、漁業関係者の風評被害への不安は大きい。

 政府、東電は放出を当面凍結し、漁業関係者らの理解を得ることに注力すべきだ。敷地内にタンク増設のスペースがなければ別の場所で保管する選択肢も探る必要があるのではないか。

 計約880トンと推定されるデブリの取り出しは数グラム程度から試験的に始める予定。廃炉には建屋解体や大量の廃棄物の処分も欠かせない。福島県内の除染作業で出た土壌の最終的な搬出先は未定だ。

 原発はひとたび事故が起きれば被害は甚大で収束に長期間を要する。これを教訓に政府は原発依存度低減の方針を堅持してきた。だが岸田政権は国民的な議論なしに原発の最大限活用に転換。ロシアのウクライナ侵攻などによるエネルギー危機や地球温暖化への対処が理由だ。

 そもそも巨大地震が想定される日本で原発の安全性を確保できるのか疑問が残る。数年以内に再稼働可能な原発は4基。現下のエネルギー危機や、30年までに大幅な温室効果ガスの排出削減が求められる温暖化対策への即応は難しい。

 ウクライナ危機では原発が武力攻撃に遭った。日本の原発は武力攻撃を想定していない。こうしたリスクも考慮すれば原発回帰は再考すべきだ。

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