社説:入管難民法改正案 国際基準に沿う議論を

 政府は今国会に、2年前に世論の反発で廃案となった入管難民法改正案を一部修正し提出した。前回同様、在留資格のない外国人を本国へ強制送還しやすくする狙いの改正。難民認定申請中は強制送還の手続きを停止するという規定が乱用され、送還を逃れる目的で申請が繰り返され入管施設への長期収容につながっているとの認識からだ。

 日本は諸外国に比べ難民認定率が極端に低い現状にある。本来は難民として保護されるべき人が本国に送還され、命の危険にさらされているのではないかという懸念が拭えない。認定率を含め国際基準に沿った入管行政に改めるべきだ。活発な国会議論が求められる。

 入管難民法は外国人の在留資格や退去強制制度、難民認定手続きなどを規定。改正案の柱は、不法滞在したり事件を起こしたりして在留資格のない外国人について、難民申請中は送還手続きを停止するという規定を見直し、申請による送還停止を原則2回までに制限することだ。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は2021年、当時の改正案に盛り込まれた送還停止の回数制限について「難民条約で送還が禁止される国への送還の可能性を高め、望ましくない」と批判した。それでも再び制限を科す改正案を提出した政府の姿勢には疑問が残る。

 日本の21年の難民認定率は0・7%で、繰り返し申請を退けられ裁判で争った末に認定された人もいる。難民を支援する弁護士によると、世界平均の認定率は3割超だ。日本で強制退去を命じられても送還を拒む人は21年末時点で3224人で、うち半数が難民申請中だった。

 こうした状況に対し外国人支援者らは、日本では他国なら難民に認められる人も認められず、申請を繰り返さざるを得ないと指摘。送還を拒む人は、本国で迫害される恐れのある難民申請者や、日本に家族がいる人だという。政府は現状を検証するべきだろう。

 出入国在留管理庁は難民認定判断の手引を策定して24日に公表し「認定の範囲を広げるものではない」と説明した。手続きの透明化を図ったことは評価できるが、判断基準について専門家から「国際的なレベルに至っていない」との指摘もある。

 改正案はこのほか、難民に準じる人を「補完的保護対象者」として救済することを明記。施設に収容せず支援者らの下で社会生活を認める「監理措置」も盛り込んだ。

 ただ、いずれの運用も入管庁の裁量に委ねられる。難民認定を含め、裁判所など独立した機関が国際基準に沿って審査、運用すべきではないか。

 21年に改正案が廃案となったのは、名古屋出入国在留管理局でスリランカ人女性が死亡した問題が批判を集めたためだ。施設運営の透明性を含む入管行政に厳しい目が注がれていることを意識し、議論する必要がある。

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