北斗星(6月22日付)
「私たちは使いこなせない」。高齢の父母はマイナンバーカードに無関心だった。それが心変わりしたのは来年秋にも現行の健康保険証が廃止され、カードに一本化されると知ってからだ。「病院にかかれなくなると大変だ。申請手続きを」と頼まれた
▼政府が振るった「ムチ」の威力だ。一方、最大2万円相当のポイントを受け取れる仕組みは申請を後押しする「アメ」。物価高騰で家計が厳しい折、効果は大きかった
▼ポイントがもらえる申請期限の2月末、各地の自治体窓口には長い行列ができた。そのため自治体は突貫工事のような作業を強いられた。何とも罪作りなやり方だ
▼別人へのカード交付、本人以外の顔写真、他人の医療情報ひも付け…。さまざまなトラブルが次々と噴き出している。システムの開発企業、人為的ミスのあった自治体の責任は軽視できないが、公金を受け取る口座情報で生じた混乱などは政府の責任が重い
▼国会閉会の昨日、関係省庁による情報総点検本部の初会合が開かれた。しかしミスや不具合を総点検するだけでは不十分だ。この際、デジタルが苦手な高齢者も取りこぼさないような仕組みの構築を真剣に検討してもらいたい
▼不吉な仮定で恐縮だが、新たな感染症が再び大流行したらどうなるのか想像した。ワクチン接種や困窮者への生活支援の手続きが、マイナカードのおかげで滞りなく進む―。残念ながらカードを巡る混乱ぶりから、そんな近未来を思い描くのは難しい。
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