社説:漫画継承へ新法人 横手を原画保存の核に
文化庁の漫画関連事業に関わってきた大手出版社などが協力し、漫画原画の散逸を防ぐため収集・保存に取り組む一般社団法人「マンガアーカイブ機構」を横手市増田まんが美術館内に立ち上げた。まんが美術館が培ってきたノウハウを生かして全国の施設や研究機関などにネットワークを広げ、これまで以上に漫画文化継承の核となることを期待したい。
機構は漫画の出版社15社が中心となり、漫画研究に取り組む大学などで構成。国、自治体も含む産学官連携により、全国の漫画関連施設の収蔵スペース拡大などを進める。
初期投資として大手4社が1千万円ずつ出資。まんが美術館を拠点に各地の施設と合わせ5年間で36万枚の原画の収蔵を目指す。機構立ち上げは収蔵から保存、活用に地道に取り組んできた美術館に対する出版社などの信頼の証しといえよう。
まんが美術館は1995年にオープンし、2019年にリニューアル。それまでは複合施設の一部だったが、原画の保存、展示に特化した単独の文化施設へと生まれ変わった。
24時間、温度と湿度を一定に管理する原画専用の収蔵庫を備えるのが特徴。「釣りキチ三平」などで知られる同市出身の矢口高雄さんら183人の漫画家の原画45万枚超を収蔵する。
20年には文化庁の委託事業として原画保存に関する国内唯一の相談窓口「マンガ原画アーカイブセンター」が開設された。漫画家やその遺族らの相談を受け付け、保存方法の指導などを行っている。
まんが美術館で収蔵可能なのは70万枚。国内でこれまで出版された漫画の原画数は7千万枚に上るとされる。単独の美術館で収蔵できる量ではなく、漫画文化を後世に伝えるためには原画の受け入れ先確保が急務だ。
一時代を築いた漫画家の作品でも漫画家の高齢化や死去に伴い、原画の散逸が懸念されている。海外のオークションで高額で落札されるケースもあるという。漫画文化が世界的に注目され、評価が高まる中、かつての浮世絵のように海外に流出することは避けなければならない。
ただし、膨大な量の原画の全てを美術品として扱い、温度や湿度を厳格に管理するのは現実的ではない。一般の美術館並みの保存環境がない施設でも、可能な限り原画を傷めないよう配慮して保管を進めることが必要だ。機構には保管施設のネットワーク構築が期待されよう。
まんが美術館は原画の新たな保管場所として、近接する国の重要伝統的建造物群保存地区の家屋内にある内蔵を活用することを目指す。歴史的な町並みや内蔵の維持管理などの課題を解決する狙いもある。
漫画と内蔵を結び付け、両者の有効活用を図るのは、この地域ならではといえる。機構設立を追い風に地域の特色を最大限生かし、活性化につなげたい。