社説:県立美術館移転10年 存在感、魅力一層高めよ
県立美術館が秋田市中通に移転開館してから28日で10年となる。コロナ禍を経て先月9日、入館者100万人を突破。今月16日には10周年記念特別展も始まった。本県の芸術文化振興と秋田市中心市街地のにぎわい創出の中核として、存在感と魅力を引き続き高めてもらいたい。
移転前の県立美術館は秋田市千秋明徳町にあった。資産家で美術収集家の平野政吉(1895~1989年)のコレクションを展示する場として、67年5月5日に開館。約半世紀を経て、日赤・婦人会館跡地(現エリアなかいち)の再開発事業に伴い、美術館をにぎわいの拠点にしようという県の方針により、千秋公園のお堀向かいの現在地に移転新築された。
現在の施設は地上3階、地下1階の鉄筋コンクリート造りで、延べ床面積3746平方メートル。建築家・安藤忠雄さんが設計した。コレクションを所有する平野政吉美術財団が指定管理者として運営している。
目玉は、平野の依頼を受けて洋画家藤田嗣治(1886~1968年)が手がけた大壁画「秋田の行事」。縦3・65メートル、横20・5メートルの大作で竿燈などの祭事や年中行事、秋田の風俗や産業が色彩豊かに描かれている。
「乳白色」の裸婦像でエコール・ド・パリを代表する画家となった藤田は30年代、中南米の旅を経て帰国し色彩豊かな画風に移行。財団が所有するのは30年代の作品が大半を占め、充実ぶりは他に抜きん出ている。
中でも「秋田の行事」はこの時期の画業の到達点の一つとされる。「県民の宝」と言うべき本作が常設展示されてきたことは意義深い。
移転10年の節目は一人でも多くの県民が鑑賞し、その価値を再認識する機会にしたい。感性を磨き、ふるさとについて考えることにもなるはずだ。
入館者数は年平均10万人ということになる。年度別では2014年度の14万4864人が最多。コロナ禍で20年度は3万人台まで落ち込んだ。本年度は8月末時点で4万1544人と回復基調にある。世界的に知られる藤田作品の情報発信を一層強化し、訪日客も取り込みたい。
にぎわい創出の面では、昨年開館したあきた芸術劇場ミルハス、旧県立美術館を改修した秋田市文化創造館、市立千秋美術館など近隣施設と連携し、相乗効果を高めてほしい。共通テーマを設けてステージイベント、パネルディスカッション、展覧会などを企画し、共通チケットで回遊する仕掛けはどうか。
26年は藤田生誕140年。27年には旧県立美術館の開館から60年、「秋田の行事」制作から90年の節目を迎える。
美術館は貴重なコレクションの調査研究を通じ、藤田の歩みや秋田との関わりを一層掘り下げてほしい。その成果を生かした新たな切り口による展示が魅力向上、ひいては入館者増につながるはずだ。