第三十九、四十、四十一段「虫は。」詩人・最果タヒさんの連載「きょうの枕草子」⑬
清少納言は、最果さんが「百人一首」の歌人の中で、友のように惹かれた人だと言います。「枕草子」現代語訳、今月は第三十九、四十、四十一段「虫は。」。
最果タヒ「きょうの枕草子」13
清少納言「枕草子」
現代語訳:最果タヒ
絵:矢野恵司

三十九
高貴なもの。
童女が、薄紫色の上に、白色の汗衫(かざみ)を重ねて着る姿。
雁の卵。
削った氷に薄い橙色の甘葛(あまずら)の蜜をかけ、新しい銀の器に入れたところ。
水晶の数珠。
藤の花。
梅の花に、雪が降りかかっている。
とてもかわいい子供が、いちごだとかを食べているところ。
四十
虫は、鈴虫。ひぐらし。蝶。マツムシ。コオロギ。きりぎりす。われから。カゲロウ。蛍。
蓑虫はとてもかわいそう。鬼が生んだ虫ともいうし、「私に似て、恐ろしい心を持っているんだろう」なんて親は思って、ぼろぼろの服を着せ「もうすぐ秋の風が吹くからね。そしたら迎えにくるからね。待っていて」と言って、逃げてしまう。そのことに気づかないで、風の音をよく聞いた蓑虫は、八月、秋の頃になると、「父よ、父よ」と儚(はかな)く鳴く。それって本当にかわいそうだ。
ぬかづき虫。これも哀れです。虫も虫なりに仏様を信じて、頭を下げて歩き回ったりするのね。たまに、そんなところに? というような暗いところで、ことことと音を立てて歩き回っているのを見るのはだいぶおもしろい。
蝿は、これは「にくきもの」に入れるべきだったかも。少しもかわいくないんだもん。おおげさに「敵!」って言えるほどの大きさではないけど、秋とかほんとなんにでも止まるし、あの濡れた足で顔にまで止まるでしょう。人の名前に蝿という字が使われてるのを見ると、本当になんでなのって思います。
夏虫はかわいくて素敵。灯りを近づけて物語を読んでいるとき、本の上を跳ね回っている。とてもいいのです。
蟻はかなり嫌いだけど、あの身軽さはすごいな。水の上を歩いているのとか、つい、見てしまう。
四十一
7月(*1)くらいの、風がとても吹いていて、雨もうるさい日。大抵そんな日はひどく涼しいので、扇のこともつい忘れて、この夏の汗の匂いが少し残った綿入りの衣をきっちり体にかけて、昼寝するの。とても好きです。
注1 旧暦の7月。今で言う9月上旬ごろ。
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