社説:岸田首相国連演説 協調の実現へ道筋示せ

 ロシアによるウクライナ侵攻などで国際社会の分断が深まる中、米ニューヨークの国連総会で岸田文雄首相が演説し、「人間の尊厳」に光を当てた国際協力の重要性を訴えた。「分断・対立ではなく協調に向けた世界を目指す」とも述べた。

 だが現実にはその前に、ロシア軍をいかにしてウクライナから撤退させ、平和を回復するかが問われよう。岸田首相には国際社会でリーダーシップを発揮し、具体的な行動で協調実現の道筋を示すことが求められる。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は岸田首相に先立ち演説。「侵略者を倒すため団結しなければならない」と各国に支援を呼びかけた。バイデン米大統領は中国を意識しつつ、「ロシアによるむき出しの侵略に対抗し、他の侵略者を抑止する」と強調した。

 岸田首相もロシアに対しては「国際法、法の支配をじゅうりんしている」と非難。中ロを念頭に、国連安全保障理事会常任理事国による拒否権乱用は「国連の分断・対立を悪化させる」として、拒否権行使の抑制など安保理の改革を主張した。

 「協調に向けた世界」の理想と、目の前の「分断・対立」という現実の落差は大きい。言葉だけの理想としないためには、確固たる外交政策と行動こそが求められよう。その点で岸田首相の演説は、具体性が欠けていたと言わざるを得ない。

 これまでウクライナを積極的に支援してきた国々に足並みの乱れが出ている。ポーランドなど東欧諸国は自国の農家への打撃を懸念し、安価なウクライナ産穀物の輸入を規制している。これをゼレンスキー氏が批判し、反発したポーランドはウクライナへの武器供与を取りやめると表明した。

 ウクライナと支援国の結束にひびが入ってはロシアを利することになる。関係修復へ日本も積極的に働きかけるべきだ。

 侵攻開始から1年7カ月。米国をはじめ多くの国で「支援疲れ」が広がる。ゼレンスキー氏は演説でグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国の共感を得ようと試みたが、中立を維持しようとする国は多く、議場の反応は冷ややかだった。

 グローバルサウスの代表格とされるブラジル、南アフリカは「対話に基づく解決策」などを主張。外交による事態打開を求めた。その解決策がウクライナがロシアに対し譲歩することを意味する限り、同調はできない。武力による領土の一方的変更を認める前例をつくっては、将来に禍根を残すからだ。

 ウクライナが求めるロシア軍の撤退や領土の一体性回復などこそが分断・対立を乗り越えた国際社会への第一歩だ。日本は今年の先進7カ国(G7)議長国で、来年末までは国連安保理の非常任理事国でもある。岸田首相は米欧と連携を強め、自ら先頭に立って外交努力を続けていくことが求められる。

お気に入りに登録
シェアする

秋田魁新報(紙の新聞)は購読中ですか

紙の新聞を購読中です

秋田魁新報を定期購読中なら、新聞併読コース(新聞購読料のみ)がお得です。

新聞は購読していません

購読してなくてもウェブコースに登録すると、記事を読むことができます。

関連ニュース

秋田の最新ニュース