平和考・世界×文化 秋田大学教育文化学部発

ウクライナの平和が脅かされて1年半がたちました。古今東西、平和への思いと戦時の世の中はどのように表現され、語り継がれてきたのか。人々は和平をいかに実現してきたのか。秋田大学で文学や芸術、歴史や哲学を担当する教員がシリーズで論じます。

ヘミングウェイが描いた戦争の内奥(中尾信一) 暴力は時に「宿命」として

 第1次世界大戦を舞台としたアーネスト・ヘミングウェイの小説『武器よさらば』(1929年)は、イタリア軍所属のアメリカ人フレデリック・ヘンリーと、戦場での負傷で入院した彼を担当するイギリス人看護師キャ…

唐の北方対策を担った皇女たち(内田昌功) 平和のため隣国に嫁ぐ

 中国の歴代王朝にとって、最大の外交課題は北方にあった。モンゴル高原は世界有数の遊牧の適地で、古くから強大な遊牧国家が成立した。中国の王朝は経済・軍事・外交のあらゆる手段を投入し、遊牧民の侵攻を防ごう…

ジャンヌ・ダルクの預言と使命(佐藤猛) 戦いの先を見据えて

 ジャンヌ・ダルクは英仏百年戦争(1337―1453年)において、神と祖国フランスのために勇敢に戦った人物といわれる。その彼女が、なぜ平和について考える本連載に登場するのか。

シェイクスピアの「戦争」と「平和」(佐々木和貴) 劇中の世界に真実あり

 シェイクスピア(1564~1616年)の生きていた時代には、戦時と平時の間にはっきりとした区別はなかっただろう。

V・ウルフ『灯台へ』が描く平穏(畠山研) 何もない朝に目覚めたい

 イギリスの作家ヴァージニア・ウルフは1882年生まれ。文芸評論家の父を持ち、自身も物書きになったが、目まぐるしく変化する人間の内面世界を難解に描いた一方、2度の大戦が勃発した激動の世紀にあってジェン…

平和憲法から排除された外国人(髙村竜平) 国民とは誰か、を問う

 敗戦後の日本は、「平和憲法をもつ文化国家」として歩み始めた。その日本国憲法第14条第1項は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関…

「逃げて、生きる」という平和試論(小倉拓也) 勇者なんかいなくても

 戦争との対比において平和を言祝(ことほ)ぐとき、そのイメージは「勝利」や「解放」のそれであることが多い。あたかも殺戮(さつりく)や抑圧に抗(あらが)い、それらを乗り越えた先に、平和があるかのようであ…

世界をつくりだす言葉のチカラ(大橋純一) 「なるほど」で仲良くなる

 「日本語は調和と共感(欧米語は主張と対立)の言語」だと言われることがある。これを聞き、如何(いか)にも合点がいくという人は少なくないだろう。確かに、言葉は人と人を結び、関係づけるものであるために、人…

イラク戦争と現代英国演劇(大西洋一) 生身の言葉で問う

 いまから20年前の2003年3月20日、「テロとの戦い」の一環として、ジョージ・ブッシュ政権下のアメリカは英国などと「有志連合」を組み、イラクに侵攻した。

李香蘭という生き方に学ぶ(羽田朝子) 国家や民族を超えて

 日中戦争のさなか、満洲(まんしゅう)国で女優や歌手として活動した李香蘭(りこうらん)は、そのエキゾチックな容貌や美しい歌声により絶大な人気を博した。流暢(りゅうちょう)な中国語を話すことから、広く中…

ネミロフスキー『フランス組曲』は問う(辻野稔哉) 見通せぬ未来、今なお

 イレーヌ・ネミロフスキー(1903~1942年)は、帝政ロシアの時代に今のウクライナに生まれたユダヤ人作家である。

合戦を伝えた軍記の功罪(志立正知) 美しき死は実相から遠く

 騎馬武者から逃げ惑い、倒壊した建物に押しつぶされる女房たち。武士に首を切り落とされ晒(さら)される男性貴族。『平治物語絵巻』「三条殿夜討巻(院中焼討ノ巻)」に描かれた戦場の一場面は、都に暮らす貴族た…

安藤昌益の「互性」を出発点に(パシュカ・ロマン) 敵も味方も私である

 平和とは何か。辞書を引いてみると、「戦争や紛争がない状態」と定義されることが多い。しかし、この定義の背景には、どのような前提があるのだろうか。ここで少し立ち止まって、「平和」の意味を再考してみたい。

インドネシア革命戦争の教訓(ホートン・W・ブラッドリー)武力なしの勝利がある

 1945年8月15日、日本の降伏で第2次世界大戦は幕を閉じた。しかし、日本占領地インドネシアにとって、終戦は、独立に向けた「革命戦争」の幕開けであった。

ヴェネツィア 描かれた平和な世界(秋田大・佐々木千佳) 文化国家こそが生きる…

 水都と称される都市は多いが、ヴェネツィアに比類する場所はどこにもない。干潟上の都市という特別な地理的環境、島々の上に建つ宮殿や教会、無数の橋、迷路のような路地。「いとも晴朗なる(ラ・セレニッシマ)」…

150年前の戊辰戦争から学ぶこと(秋田大・渡辺英夫) この秋田も戦場だった

 昭和20(1945)年8月、日本がポツダム宣言を受諾し無条件降伏してから今年で78年、この間、日本はどことも戦争をしていない。いまを生きる私たちの大半は戦争のない時代に生まれ、当たり前のように平和を…

アンネ・フランクが記した愛と夢(秋田大・中村寿) あったはずの人生を思う

 ウクライナの平和が脅かされて1年半がたちました。古今東西、平和への思いと戦時の世の中はどのように表現され、語り継がれてきたのか。人々は和平をいかに実現してきたのか。秋田大学で文学や芸術、歴史や哲学を…