選考経過

(2020年11月3日 付)
最終選考の5編を審査する(左から)高橋さん、西木さん、諸田さん=東京・銀座

 今回は最終選考に「青い月」「小野寺穂乃の疾走」「胎児たちの夏休み」「ヒカリ指す」「賽銭泥棒」の5編が残った。作品によって選考委員3人の評価が割れ、高得点の付いた「ヒカリ指す」と「賽銭泥棒」のいずれを入選とするかで審査が難航。最終的には、「甲乙付けがたい」として2編とも入選とすることで決着した。

 応募数は前回より25編少ない223編。都道府県別では東京が最多の31編で、神奈川17編、埼玉16編と続き、本県は11編だった。カナダやブラジルなど海外からも寄せられた。年齢は15~90歳と幅広く、平均は61歳だった。

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 「ヒカリ指す」は、東日本大震災で津波被害や原発事故に見舞われた福島県から他県へ移り住んだ少年の物語。学校でいじめに遭うが、女性として生きるトランスジェンダーの叔父と巡り合って活路を見いだし、成長していく人間ドラマを描いた。

 最高点を付けた西木正明さんは「性的少数者に焦点を当てた点がいい。差別や偏見について考えさせる要素が盛り込まれ、入選にふさわしい」とたたえた。諸田玲子さんは「震災やジェンダーを取り上げるならもっと自分らしいメッセージを強く出していい」としつつ、「子どもの視線をすごく上手に表現しており、胸に迫るものがあった」と高く評価。高橋千劔破さんは「地震、津波、原発、放射能、学校、家族などテーマが盛りだくさんでまとまりがいまひとつ。物語の終わり方もあっけない」と指摘した。

 「賽銭泥棒」は、神社や寺院で泥棒を繰り返す男が主人公。ある日、賽銭箱をあさる姿を少女に目撃されてしまう。男は少女が母親から日常的にせっかんを受けていることを知り、ふびんに感じて救いの手を差し伸べる。

 高橋さんは「波乱があって時代物としてよく書けている」と高得点を付けた。諸田さんも「面白い。このまま本になっても不思議じゃない」と称賛。その一方で「善行を積める人物がどうしても賽銭を盗まずにはいられなくなるのはなぜか。その精神面のゆがみを描写すべきだ」と付け加えた。西木さんは「楽しく読めたが、文章力に物足りなさを感じた」と印象を語った。

 選外3編のうち「小野寺穂乃の疾走」は、名うての剣士と妻を題材にした時代小説。「文章は全体的に丁寧でうまい」と一定の評価を受けた。一方で「いろんな時代物の小説を掛け合わせたような印象が拭えない」「結末にもっと工夫の余地があった」との感想があった。

 子どもを持つ母親たちのやりとりや人間模様を描いた「青い月」は、「障害という難しいテーマに挑み、意欲を感じさせる」との評があった半面、「人間的な深さが伝わってこない」「物語性が乏しい」とされた。

 「胎児たちの夏休み」は、非正規雇用の男性が少年時代に山あいの田舎町で夏休みを過ごした思い出を振り返るストーリー。「登場人物の描写がすごくうまい」との声も上がったが、「全体を通して何を伝えたいのか、書きたいのかがよく分からなかった」と受け止められた。