使う「かな」、削る「かな」
ものごとには内容と形式があります。まず内容があって、それに形式が従属する。それがふつうの考え方です。内容より形式を重視する「形式主義」は悪いことと考えられています。俳句ではどうでしょうか。俳句には五七五という形式があります。この点に着目し、発想を切り替えてみましょう。まず形式を決めて、それに合うように中身を作っていく。本末転倒のようですが、この発想は推敲に役立ちます。
今回は切字(きれじ)の「かな」を使います。蕪村の「春の海ひねもすのたりのたりかな」や一茶の「雪とけて村いつぱいの子どもかな」の「かな」です。高浜虚子に次のような推敲(すいこう)例があります。
(1)門畑(かどばた)の秋茄子の日に籠(こ)にみつる
→秋茄子の日に籠にあふれみつるかな
(秋茄子(なす)を採る。日の光を浴びてあふれんばかりに籠いっぱいになった)
(2)縁(えん)に腰そのまゝ話し日向ぼこ
→縁に腰そのまゝ日向ぼこりかな
(縁側に腰をかけ、そのまま日向(ひなた)ぼっこだ)
句の形を「かな」止めにすることにより、言葉の数が減り((1)は「門畑」、(2)は「話し」を省略)、スッキリした句になりました。以下、投稿句について「かな」を使った添削を試みます。
切字で言葉を省略
南風ユラユラ揺れるハンモック
伊藤瀬成(せな)さん(金足農高3年)の作。ハンモックに南風という夏らしい句です。虚子の「日向ぼこりかな」を参考に、
南風ゆらゆらとハンモックかな
としてはどうでしょうか。片仮名が多いのでユラユラは平仮名にします。「ゆらゆら」だけで揺れていることはわかります。「かな」を使って「揺れる」を省略しました。
ラジオから夏想わせる懐メロよ
粕田舞翔さん(大館桂桜高1年)の作。ラジオ番組の懐メロの選曲にも夏が感じられます(「勝手にシンドバッド」とか…)。着眼の面白い句です。この句に「かな」を使ってみましょう。「かな」が付くのは三音の名詞です。この句だと「ラジオかな」です。下五が「ラジオかな」になるように言葉を並べ替えると
懐メロの夏想わせるラジオかな
となります。「ラジオから」の「から」が消えました。
句形を整える
次に、これまでと反対に、「かな」を消す添削を試みます。
桃を食(は)むやうな口づけの音かな
岩谷ゆいさん(秋田西高3年)の作。口づけの音が、桃を食べる音に似ている。ドキッとする句です。「桃を食む/やうな口づけの/音かな」と、五・八・四になっている句形を整えたい。「かな」を消すと「桃を食むやうな口づけの音」。これを五七五に直すと「桃を食むやうな口づけ音立てて」となります(「口づけ」で切れます)。さらに言葉を並べ替えて
口づけの音は桃食むやうな音
とすると句形が整います。
ここで頭の体操です。口づけと桃の関係を逆転してみましょう。たとえば
桃を食ふとき口づけのやうな音
とすると、口づけの句(恋の句)ではなく、美味しそうに桃を食べているという意味になります。
なお、「桃を食むやうな」の「桃」のように、比喩に用いられた言葉を季語と認めてよいかどうかという議論があります。そこに「桃」がないのだから季語と認め難いという見解もありますが、私は、「桃」という言葉が桃を連想させるので、このような「桃」も季語と認めてよいと考えます。
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