語順を変えてみれば

(2020年8月3日 付)

 俳句には十七音しかありません。使える言葉の数は限られています。

 「古池や蛙飛び込む水の音」を単語にばらしてみましょう。名詞は「古池」「蛙」「水」「音」の四個。動詞は「飛び込む」だけ。残りは間投詞の「や」と助詞の「の」。俳句の言葉はこれほど少ない。限られた数の言葉を効果的に使うためにはどうすればよいのでしょうか。一つ言えるのは、言葉の並べ方(語順)が大切だということです。

 

 推敲(すいこう)前「花に病む子あれば一家楽しまず」

 (桜の咲く頃に病気の子がいる。そのため一家は楽しまぬ日々を送っている)

 

 推敲後「病む子あり花にも一家楽しまず」

 (病気の子がいる。そのため桜の咲く頃にも一家は楽しまぬ日々を送っている)

 

 高浜虚子の句です。使っている言葉は推敲の前後で変わっていません。しかし推敲によって「桜が咲いても楽しくない。なぜなら子供が病気だから」という意味合いがはっきりしました。

 俳句にとって語順はとても大切です。今回は、語順を変えることで一句全体の印象がどう変わるかを、投稿句について見ていきたいと思います。

下五を五音ぴったりに

夏季補習この席だけは僕の空間(せかい)

 藤原すももさん(横手高3年)の作。夏季補習を受講している椅子と机だけが狭いながら自分の世界だというのです。「夏季補習」を下五に置くと「この席だけは僕の空間だ夏季補習」となります。さらに

この席だけが僕の空間か夏季補習

とすると鬱屈(うっくつ)した気分が出ます。

 なぜ「夏季補習」を下五に置くことをご提案したかというと、字余りの部分を上に持っていって下五を五音ぴったりにすると句形が安定するからです。松尾芭蕉に「芭蕉野分(ばしょうのわけ)して盥(たらい)に雨を聞く夜かな」(庭の芭蕉を台風が襲い、家の中の盥に雨の漏る音がする)という句があります。「芭蕉野分して」は大幅な字余りですが、「聞く夜かな」が五音ぴったりなので、音読したとき俳句っぽい感じがします。高浜虚子の「凡(およ)そ天下に去来程の小さき墓に参りけり」も同様です。

軽い疑問の「か」

五時間目窓の外には春嵐

 伊藤柚希さん(能代西高3年)の作。「五時間目」を下五に持ってきて

窓の外は春の嵐か五時間目

としてはいかがでしょうか。「五時間目」のけだるいような気分が一句の余韻になると思います。

 「僕の空間(せかい)か」「春の嵐か」の「か」は独り言でつぶやくような軽い疑問です。一茶の「是がまあつひの栖(すみか)か雪五尺」(ここが自分の最後の住み家か。雪が五尺つもっている)の「か」と同じです。

答ではなく問を提示

梅雨曇一年前から閉店セール

 福田倫生さん(秋田北高3年)の作。「閉店セール」を長く続けているうちに梅雨になってしまったのです。「梅雨曇」を下五に置くと「一年前から閉店セール梅雨曇」となります。さらに

いつよりの閉店セール梅雨曇

とする案があります。「閉店セール」はいつ頃からやっていたっけ、そうだ、一年前からだ、と作者は自問自答したことでしょう。「一年前」という答ではなく、「いつ頃からだろうか」という問を提示することによって、長い閉店セールであることを、読者に想像させることができます。

 「か」や「いつ」などの疑問の表現については、別の機会に詳しく取り上げたいと思います。

さあ、あなたも投稿してみよう!