関係を物語る二人称

(2020年11月2日 付)

 前回(10月26日付)に続き、二人称を取り上げます。以下はすべて高浜虚子の俳句です。

 

虹立ちて忽ち君の在る如し(1)

虹消えて忽ち君の無き如し(2)

不思議やな汝(な)れが踊れば吾が泣く(3)

 

 「君」「汝れ」と詠まれたのは森田愛子という女弟子です。結核のため29歳で亡くなった愛子と虚子との交情を描いた小説「虹」は小説家としての虚子の代表作です。虚子は鎌倉(神奈川県)、愛子は三国(福井県)に住んでいたため会う機会は乏しく、虚子は病中の愛子に「虹が立つと貴女がいるようだ(1)。虹が消えると貴方がいなくなるようだ(2)」と書き送りました。また、山中温泉での俳句会の席上で愛子は虚子のために踊を披露しました。それを見た70歳の虚子は感極まって涙を流した(3)と伝えられています。
 虚子は、遠くに住む愛子を恋人のように「君」と詠み、眼前で踊る愛子には親しく「汝れ」と呼びかけたのです。〈虹立ちて忽ち汝れの在る如し〉や〈不思議やな君が踊れば吾が泣く〉ではよろしくない。
 二人称には「君」「あなた」などいろいろあり、俳句に使う場合もそれぞれニュアンスが違います。以下、投稿作品に見られる二人称の用例を拾い、他の言葉に置き換えて比べてみます。言葉の対照実験です。

存在を身近に感じる「君」

花の雨見つめる君と傘の中

 岩谷ゆいさん(秋田西高3年)の作。〈花の雨見つめる人と傘の中〉と比べてどうでしょうか。一つの傘の下で「君」は雨の桜を見ている。その「君」の存在を作者は身近に感じている。「人」より「君」のほうが親しい感じがします。

春惜しむ君はなんにも言わず行く

 千葉優翔さん(秋田大1年)の作。作者が男性、「君」は女性と仮定します。〈春惜しむ彼女なんにも言わず行く〉と比べてどうでしょうか。「君はなんにも言わず行く」のほうが、なんにも言わない相手に対する物足らない気持ちがよく表れています。

はかなきは君をば求む桜東風

 茂木槙二さん(湯沢高3年)の作。「あなたを求む桜東風」と比べてどうでしょうか。「君をば求む」のほうに、感情の初々しさが感じられます。

 優しい響きの「あなた」

花林檎あなたの喉を暴きたい

 加藤菜々さん(由利本荘市、会社員23歳)の作。〈花林檎おまえの喉を暴きたい〉だと危ない句になってしまいます。「喉を暴きたい」と言いながらも「あなた」という言葉に相手を思う気持が感じられます。

春の海あなたの星になれますか

 も同じく加藤さんの作。〈春の海あの人の星になれますか〉と比べると、「あなた」の効果がよくわかります。

愛の唄あなたに贈る満月よ

 浦島奈々さん(能代西高3年)の作。〈愛の唄おまえに贈る満月よ〉では上から目線ですね。〈愛の唄君にと贈る満月よ〉では何だかキザっぽい。「あなた」という優しい響きが効果的だと思います。

 「君」や「あなた」を恋人と見立てて検討しました。じっさいに恋をしなくてもフィクションとして恋を詠むことは古来、詩歌のたしなみです。

 

 君と我うそにほればや秋の暮 虚子

 

 秋の暮って淋しいから、君とボクとで恋人ごっこでもしようよ、というのです。
 明治39年の作。このとき虚子は32歳。「君と我」という口ぶりがちょいワルおやじ風です。

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