「全集中」で情景描写

(2021年2月1日 付)

 映画『鬼滅(きめつ)の刃(やいば)』が大評判です(秋田では「鬼滅」より『泣く子はいねぇが』ですね)。「鬼滅」に「全集中の呼吸」という、肉体強化のための呼吸法が出て来ます。我田引水ですが、この「全集中」という考え方は俳句にも使えそうです。たとえば眼前の情景を見て一歩踏み込んだ句を作るには、情景の要諦を捉える集中力が必要です。たとえば次の句のように。

 

 夏草に延びてからまる牛の舌 高浜虚子

 

 草を食う牛の姿。ちょっと見にはただ無造作に詠んだだけのようですが、「からまる」とまで見届けるには集中力が必要です

 

 夏草に黄色き魚を釣り上げし 虚子

 

 釣り上げた魚がドサリと草に落ちた。「釣り上げし」から大きな魚が想像されます。てらてらと濡(ぬ)れた「黄色」が生々しい。ぼんやりと眺めていただけでは「おや魚が釣れた」で終ってしまう情景ですが、そこに集中力を向けると「黄色き魚を釣り上げし」という発見が生れます。

 今回は投稿作品の中から、情景を詠(うた)った句を取り上げます。

景の要所を捉える

アスファルト黒し雪掻き止められぬ

 高畠佳代子さん(50歳、石川県白山市)の作。掻き続ける雪の下にアスファルトの黒っぽい色が見えて来た。もうひと頑張りです。「アスファルト黒し」が発見です。舗装の色など当り前のこととして見逃してしまいそうですが、そこに意識を集中させると「黒し」という景の要所が見えて来ます。句の形の上では「黒し」という句中の切れが歯切れ良い。より客観的な書き方にするならば、

アスファルト黒し雪掻き続けをり

ですが、やや淡泊な感じになります。

あえて力を抜く

雪下ろし湯気が上がるや友の髪

雪催もよい行き交う人の襟高し

 高橋洸貴さん(30歳、大仙市)の作。屋根の雪下ろしをする友の髪から湯気が上がっている。汗をかいているのでしょう。二句目は寒々と行き交う人々の襟に着目しました。何か特徴的なことはないかと、情景に意識を集中した結果、友の髪や襟が目に飛び込んで来たのです。より平坦(へいたん)な書き方をするならば、

雪下ろす友の髪より湯気上がる

襟高く人の行き交う雪催もよい

 となります。ズバっと言い切った元の句のほうが良いと思う人のほうが多いと思いますが、肩の力を抜いた平坦な詠み方も捨てがたいものです。

細部に集中する

子の頬のうぶ毛輝く小春空

 安田有紀さん(34歳、潟上市)の作。この句も子供の姿を詠うのに、頬という細部に集中し、さらに微細な「うぶ毛」に着目しました。微細な対象を詠った中七から、下五の「小春空」の広がりに転じたところが巧みです。

ふゆすずめぬかをたべてるぬかだけを

 丹野千鶴さん(高清水小1年)の作。大人なら〈糠(ぬか)を食ふただ糠を食ふ冬雀(すずめ)〉とでもするところでしょう。この句、冬の雀をじっと観察しました。「全集中」して見ているうちに、その雀が糠ばかりを食べていることに気がついた。精米所のそばなのでしょうか。俳人は雀に集中し、雀は糠に集中している。その結果「ぬかをたべてるぬかだけを」というフレーズが生れました。十七音のうち、Uの音が六音(フ、ユ、ス、ズ、ヌ、ヌ)もあって、音読したときの音の響きも「集中」した感じがあります。

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