擬人法で表情豊かに

(2021年6月7日 付)

 国語の時間に「擬人法」を習ったことをご記憶のかたも多いと思います。「風がささやく」「母なる大地」のような言い回しは俳句にも登場します。

 

 落花のむ鯉はしやれもの髭長し 高浜虚子

 

 池に浮く桜の花びらを呑(の)みこむ鯉。髭(ひげ)が長い。その様子はいかにも洒落者。

 

 しぐれつつ留守守る神の銀杏かな 虚子

 

 時雨のなか、神社の銀杏(いちょう)が、神様の留守を守っている。

 

 雪解くるささやき滋し小笹原 虚子

 

 笹原の雪がとける。そのかすかな雫(しずく)の音が、人のささやきのようだと言ったのです。以上の三句は下線部が擬人法です。では次の句はどうでしょうか。

 

 東山静に羽子の舞ひ落ちぬ 虚子

 

 京都の東山。正月の羽根突きで突き上げた羽子が静かに舞い落ちて来る。この句の「舞ひ」もまた擬人法です。「舞」という漢字は、人が両手に飾りを持って舞うさまを表します。「舞う」は本来、人が舞うときに使う言葉です。それを転用して、木の葉や蝶(ちょう)が舞い、ときには砂埃(すなぼこり)が舞う。これらも一種の擬人法なのです。
 今回は「舞う」も含めた擬人法の用例に着目し、投稿作を見ていきます。

語感に配慮する

黄砂舞う七色の風潮騒と

 太田穣(ゆたか)さん(男鹿市、55歳)の作。春先に飛んで来る黄砂によって空が七色に輝き、海のひびきが聞こえて来る。スケールの大きな佳句です。「舞う」は、さきほど申した通り一種の擬人法ですが、この句にとっては語感が優美に過ぎるように感じます。添削では「舞う」を消します。「潮騒」も良い言葉ですが、もう少し単純な言葉を使ってみます。「七色」は「虹色」に言い換えてみましょう。

虹色の風は黄砂や海の音

めりはりをつける

初蝶の舞いぬ発車ベルの鳴りぬ

 米屋結衣さん(秋田県立大2年)の作。発車が作者と蝶の別れであると鑑賞してもよいと思います。初蝶はひらひらと舞っている。そのときに発車ベルが鳴った。時間の表現に関しては、蝶には継続の、発車ベルには完了の助動詞を使うと、時間の表現にめりはりがつくと思います。

初蝶の舞いをり発車ベル鳴りぬ

別の表現も試みる

山蟻の散歩の道は墓の上

 平野智子さん(秋田市、45歳)の作。蟻(あり)が墓石の上を歩いていた。「散歩」という擬人法によって蟻に親しみが感じられます。蟻の巣から餌に向かって行列を作った状態を「蟻の道」といいますが、この句の山蟻は一匹だけでうろうろしている状態を想像します。添削では突き放した(非情な?)表現を試みます。非情な表現にすると墓石の無機的な感じが出ると思います。

山蟻の歩いてゆくは墓の上

存在感を際立たせる

半分の西瓜静かに出番待つ

 柳原夕子さん(美郷町、38歳)の作。大きな西瓜(すいか)の存在感を詠んだ句です。「出番待つ」が擬人法で、この西瓜はこのあと美味(おい)しく食べられる運命にあることがわかります。
 添削では、西瓜の存在感だけに絞った表現を試みます。

半分の西瓜静かにありにけり

 擬人法を使うと、メルヘン風になったり、滑稽味が出たり、句の表情が豊かになります。そのいっぽうで、擬人法を使わない素っ気ない表現にも別の魅力があります。
 擬人法を使った句を作った場合、擬人法を使わない代案も作って、両案を見比べることをおすすめします。