回想も格好の題材に

(2021年6月21日 付)

 俳句は一般的には眼前の情景を詠むものと考えられていますが、ときには過去のことを想像し、あるいは回想して句に詠むことがあります。このような句を得意とした俳人が蕪村です。

 

 鳥羽殿へ五六騎急ぐ野分かな 蕪村

 

 江戸時代の俳人の作です。鳥羽殿(鳥羽上皇の離宮)へ武者が急ぐ場面は、例えば保元の乱などを想像します。

 

 易水に葱流るゝ寒哉 蕪村

 

 秦の始皇帝を狙う刺客の荊軻(けいか)が、易水で燕の国の太子と別れたという中国の古典(『史記』)に取材した句。「風蕭々トシテ易水寒シ、壮士一タビ去ツテ又還ラズ」と荊軻が詠んだ詩のパロディで、悲壮感の漂う場面を、葱(ねぎ)という身近な野菜によって滑稽化した俳趣ある作品です。

 

 野を焼いて帰れば燈下母やさし 高浜虚子

 

 大人に混じって野焼をして帰って来た作者を、燈下の母が優しく迎えてくれた。大正期の作。作者の母は明治のうちに亡くなっており、回想の句と思われます。
 今回は詠史の句(歴史に取材した句)や過去を回想して詠んだ句を、投稿作の中から拾ってみましょう。

感動をストレートに表現する

源平の戦を見しか山桜

 宮部蝸牛さん(兵庫県西宮市、73歳)作。源平の古戦場に咲いていた山桜の老木は合戦を見たのだろうか、というのです。「か」は疑問です。さすがに源平の時代の山桜は現存していそうもありませんから、遠慮気味に「見しか」(見たのか)としたのでしょうけれど、ここは思い切って

源平の戦を見たる山桜

としてはどうでしょうか。山桜が古木であることに感動したのですから、断定的な表現にしてよいと思います。「見たる」も悪くないのですが、

源平の戦を知れる山桜

も考えられます。「知れる」は、知っている、という意味です。

夏の雲古代の都市を隠しけり

 京野純さん(秋田北高3年)作。大きく盛り上がる夏の雲の中に、古代都市が隠れている、というのです。ジブリのアニメにでもありそうな情景です。切れ字の「けり」が効いています。

遠き日のタイムカプセル虹の下

 加藤真綿さん(秋田北高3年)作。眼前に虹が立ち、その虹の下のあたりに遠い昔、タイムカプセルを埋めたのです。

強調する言葉はどれか

梅雨明や海に沈んだ飛行船

 武石湖都菜さん(秋田北鷹高を今春卒業)作。梅雨明けの明るい海。この海に、飛行船が沈んだ過去がある。切れ字の「や」が効いています。海を強調するなら

飛行船沈み海や梅雨明くる

としてもよい。添削句は文語(下線部)を使いました。

上五の字余りは気にならない

今はなき冬木の桜の並木道

 佐藤那奈さん(大館鳳鳴高)の作。以前に通った道をまた通ったら桜並木が無くなっていた、と解しました。中七の字余りを直しながら添削を試みます。

昔ここに桜並木や冬の道

 添削句は上五が六音です。一般に、中七下五が七音五音に収まっていれば、上五の字余りは気になりません。

全体を文語で揃(そろ)える

盆は夜亡き祖母の声髪撫でる

 澤石瀬菜さん(秋田中央高3年)作。「盆は夜」(お盆らしい時間は夜だ)で切って読みます。思い出の中の祖母の声が髪を撫でてくれるようだ、というのです。「亡き祖母」は文語調です。一句全体を文語に揃えて、下五は「髪撫づる」(下二段活用の連体形)とするのがよいと思います。

盆は夜亡き祖母の声髪撫づる