奥深きオノマトペ

(2021年7月5日 付)

 擬態語・擬音語あるいはオノマトペなどと呼ばれる表現技法があります。この技法は俳句にも用いられます。以下は芭蕉の句です。(下線部が擬音語・擬態語)

 

 むめ(梅)がゝ(香)にのつと日の出る山路哉

 

 ひら〳〵とあぐる扇や雲の峰

 

 ひや〳〵と壁をふまえて昼寐哉

 

 ひよろ〳〵と尚露けしや女郎花

 

 あか〳〵と日は難面もあきの風

 

 ぴいと啼尻声かなし夜の鹿

 

 芭蕉は「ひらひら」のような、ありふれた擬態語を効果的に使っています。いっぽう「のつと」などは、この句のために発明したかのように新鮮です。
 今回は擬態語・擬音語を用いた句を投稿作の中から拾ってみましょう。

語順を変えてみる

愛読書手にいそいそと夏の庭

 安井西紫湖さん(鳥取県米子市、50歳)の作。好きな本を手にして、お気に入りの木陰に向っていそいそとゆくのです。動詞が省略され、無駄な言葉のない作品です。

愛読書手にいそいそと庭の夏

とすると、「夏」の一字に広がりが出ると思います。

表現の重複を避ける

客去りてしみじみ思う盆の夜

 今野夏美さん(能代松陽高3年)の作。「しみじみ」があるので「思う」は省略できます。

客去りし後しみじみと盆の夜

言葉をシンプルにする

ざくざくと足音作る雪の道

 高杉悠太さん(秋田中央高を今春卒業)の作。「ざくざく」はしっかりした把握。「足音作る」は再考の余地があります。まずは

ざくざくとゆく足音や雪の道

と直します。「ざくざく」は音の形容ですから「足音」も消せそうです。

ざくざくと我はゆくなり雪の道

 言葉をシンプルにすると「ざくざく」が目立ちます。

 

ひらひらと咲いて散り行く六花かな

 佐々木美月さん(秋田中央高3年)の作。「六花」から「咲いて」が出て来たのかもしれませんが、略せそうです。

ひらひらと散りゆくものは六花かな

助詞を吟味する

花びらももんしろちょうもひらひらと

 丹野知さん(秋田市、高清水小5年)の作。雪(六花)や散る花や蝶に用いる「ひらひら」は代表的な擬態語です。

花びらともんしろちょうとひらひらと

 「も」を「と」に変えると句がリズミカルになります。

無駄を省き余韻を生む

蛍火のぽつりと光る田んぼ道

 土橋幸衡さん(由利本荘市、本荘東中を今春卒業)の作。「ぽつり」が小さな一点を表します。「光る」は略せます。

蛍火のそこにぽつりと田んぼ道

 

ほーほけきょひんやり澄んだ春の朝

 吉川幸子さん(東京都、43歳、男鹿市出身)の作。「春の朝」と「鶯」で季が重なるので「ほーほけきょ」としたのかもしれません。落ち着いた感じの句ですから「鶯」としたいところ。「春」は消します。

鶯にひんやりと澄む朝かな

 おしまいに「ひら〳〵」を使った先人の作例を紹介します。
 
 ひら〳〵と月光降りぬ貝割菜 川端茅舎
 
 風立ちて月光の坂ひらひらす 大野林火
 
 私も「蟷螂のひらひら飛べる峠かな」と詠んだことがあります。「ひら〳〵」のようなありふれた言い回しでも、使い方によってはまだまだ新しい表情を見せてくれます。