口語の効果を考える

(2021年7月19日 付)

 以前に本欄で「文語を使ってみよう」(2020年5月18日付)というテーマを取り上げました。今回は「口語」に着目します。

 

 戦争が廊下の奥に立ってゐた 渡邊白泉

 

 昭和14(1939)年作。無季。昭和12年に日中戦争が勃発。戦争が、軍国主義が、家の廊下にぬっと立っているかの如(ごと)き時代の気分を捉えました。「戦争の廊下の奥に立ちゐたり」と文語で書くより「戦争が……立ってゐた」と口語で書いたほうが、時代の不安が生々しく伝わります。反戦的・厭戦(えんせん)的な作品を作っていた俳誌『京大俳句』の俳人たちは昭和15年、治安維持法違反の嫌疑で特高警察に検挙されました(「京大俳句事件」)。軍国主義の下での思想統制の一例です。白泉も京都の警察署に3カ月にわたって拘置されました。

 

 街燈は夜霧にぬれるためにある  白泉

 

 銃後といふ不思議な町を丘で見た 同

 

 遠い馬僕見てないた僕も泣いた  同

 

 憲兵の前で滑って転んぢゃった  同

 

など、白泉は或(あ)る時代の、ときには鬱屈(うっくつ)した気分を詠みました。そのさい口語を巧みに取り入れています。
 今回は、口語を用いた投稿作を拾ってみましょう。

口語で親しみやすくする

銃声は遠いハードル花は葉に

 高橋優さん(横手高2年)の作。遠くに響く「銃声」はハードル競走のもの。平和な時代の銃声です。文語なら「遠きハードル」ですが、口語で「遠い」と書いたほうが親しみやすい感じがします。

助詞をいろいろ変えてみる

風光るしっぽも揺れるきも揺れる

 吉川幸子さん(東京都、43歳、男鹿市出身)の作。栗鼠(りす)の尻尾あるいは鳥の尾羽を想像しました。文語で書くと「しっぽも揺るるきも揺るる」ですが、口語の「揺れる」のほうが、この句の柔らかい感覚に合っています。「しっぽも」「きも」と「も」を重ねたのも工夫ですが、「も」を別の助詞に変えた案を考えてみましょう。分かり易(やす)くするため尻尾と木は漢字にします。

風光る尻尾が揺れる木も揺れる

風光る尻尾が揺れる木が揺れる

風光る尻尾が揺れる木と揺れる

風光る尻尾が揺れる木に揺れる

 わずか二文字ですが、いろいろ考えられます。私のおすすめは、尻尾と木とがそれぞれはっきり見える「しっぽが揺れるきが揺れる」です。「~も、~も」という形が好きな人もいると思います。もっと別の表現がないかと考えるのが推敲(すいこう)の楽しみですが、迷ったときは自分の感性を信じ、自分の好きな表現にすればよいのです。

話し言葉を生かす

エイプリルフール寂しいとか言って

 鷹島由季さん(東北学院大)の作。「(君に会えないと)寂しい」などと甘い言葉を言うけれど、今日は四月馬鹿なのよ、と相手(恋人?)にツッコミを入れています。口語、特に話し言葉を生かした作。上五から中七にかけては「句またがり」です。文語旧仮名なら「エイプリルフールや寂しなどと言ひ」とでも書くのでしょうけれど、原句の持つみずみずしい情感は失われます。

文語か口語にそろえる

レンギョウの一枝切りて供花にする

 山野みどりさん(秋田市、73歳)の作。「切りて」が文語調で「する」が口語調ですが、どちらかに揃(そろ)えたほうがよい。文語なら

レンギョウの一枝切りて供花となす

 口語なら「レンギョウの一枝切って供花にする」。この句にはオーソドックスな文語調が合うと思います。