色で変わる句の気分

(2021年10月18日 付)

 「白」を詠んだ芭蕉の句を拾います。

 

 梅白し昨日ふや鶴を盗れし 芭蕉

  (梅が白く咲いている。この庭に鶴がいないのは昨日盗まれたのか)

 

 石山の石より白し秋の風

 

 葱(ねぶか)白く洗ひたてたるさむさ哉(冬)

 

 海くれて鴨のこゑほのかに白し(冬)

 

 月白き師走は子路が寝覚哉

  (冬・師走の月の白さは、孔子の門人で廉直で知られた子路の清々(すがすが)しい寝覚めの心地のようだ)

 

 水仙や白き障子のとも移り

  (冬・水仙と白い障子が相ともに映え合っている)

 

 こうして見ると、寒々とした冬の感じを「白」に託した句が多いことに気づきます。一句の気分と色彩の表現とがどう結びつくか。今回も色彩に着目した投稿句を見ていきましょう。

省略で想像をかき立てる

刈田とて求めて集う白きたち

 山内景子さん(横手市、39歳)の作。落穂や小動物を狙って白い鳥などが刈田に集まって来るのでしょう。淋しい刈田の景のささやかな賑わいです。「白き」は白きものという意味。鷺(さぎ)などと特定せず、漠然と「白きたち」と言ったことで、かえって読者の想像が膨(ふく)らみます。同じような手法を用いた作例に
 
 冬晴に応ふるはみな白きもの 後藤比奈夫
 
があります。

表現をなめらかにする

闇に浮く白き指先風の盆

 結城啓至さん(神戸市、83歳)の作。風の盆の物寂びた感じを、踊る人の指の白さに託しました。よりなめらかな表現を試みましょう。

闇に浮く指先白く風の盆

省略できる語を探す

雨上がり道の烏や白日傘

 西田みや女さん(神戸市、53歳)の作。夏の雨上がり、黒と白を対照させました。「道」は省略できそうです。

雨上がり白き日傘と烏かな

形容する言葉を重ねる

黒々と濡れて小さし鹿の鼻

 南幸佑さん(東京、海城高校2年)の作。「黒々」「濡れて」「小さし」と畳みかけるような形容を重ね、「鹿の鼻」をクローズアップしました。
 濡れたものの質感を「黒」で表現した句は芭蕉にもあります。
 
 しぐるゝや田の新株(あらかぶ)の黒むほど 芭蕉
 
 収穫して間もない田んぼの刈り株が、時雨に濡れて黒ずんでいます。

主体は何かを考える

鮎の里渓谷の青迫り来る

 桝尾初美さん(山口県、63歳)の作。鮎の名産地。渓谷の側壁が迫って来る。その青さは草木の青さでしょうか。迫って来るのは「青」ではなく「渓谷」です。その点に留意して添削を試みます。

鮎釣や渓谷青く迫り来る

 中七は「渓谷の青」より「渓谷青く」のほうがよいと思います。人物の姿を入れると句が生き生きとしますので、上五は「鮎釣」にします。
 芭蕉も「青」という色を句に詠み込んでいます。
 
 青くても有(ある)べき物を唐辛子 芭蕉
 
 青いままでもいいのに、秋になると唐辛子が赤く色づく。唐辛子という植物を詠んだ句ですが、人生訓にも通じるような味わいがあります。

ざり蟹の爪鮮やかな朱を掲げ

 吉野宥光さん(埼玉県、70歳)の作。ザリガニ(夏)の鮮やかな朱色の爪。掲げるのは爪そのものですから、以下のように語順を入れ換えましょう。切字の「や」を使って句の形を整えます。

ざり蟹や鮮やかな朱の爪掲げ

さあ、あなたも投稿してみよう!