詩を生む「取り合わせ」

(2021年11月22日 付)

 灰汁桶の雫やみけりきり〴〵す 凡兆

 

 凡兆は芭蕉の弟子で元禄時代に活躍。灰汁を採る桶の雫が止まった。きりぎりすが鳴いている。秋の夜の静けさが感じられます。灰汁の雫ときりぎりすとは特に関係はありません。関係のないものを並べることで詩情が生まれることがあります。このような作り方を、取り合わせといいます。

 

 百舌鳥なくや入日さし込女松原 凡兆

 

 鵙(もず)が鳴く。女松(アカマツ)の林に入日がさしこむ。景色(松)と音(鵙の声)を取り合わせたことで、日の暮の松原の様子が立体的に感じられます。

 

 郭公鳴や湖水のさゝにごり 丈草

 

 丈草も芭蕉の弟子。ホトトギスが鳴き、琵琶湖はうっすらと濁っている。微妙な季節感を漂わせた句で、前の句と同様、景色(湖の濁り)と音(ホトトギス)を取り合わせています。このように、取り合わせの発想を用いた句は、芭蕉の時代にも見られます。これに対し、一つのモノだけを詠んだ句を一物(いちぶつ)仕立てといいます。たとえば唐辛子だけを詠んだ

 

 青くても有べき物を唐辛子 芭蕉

 

は典型的な一物の句です。一物と違い、取り合わせは二つの物事の組み合わせに変化がつけられるので、多様な作品を生みやすい手法です。今回は取り合わせに着目しながら、投稿句を見ていきたいと思います。

意外な出合いの妙を味わう

虫のこえサンドイッチの中はハム

 丹野千鶴さん(秋田市、高清水小2年)の作。コオロギなどの「虫のこえ」が秋の季語です。「虫のこえ」が聞こえることと、サンドイッチの中身がハムであることとは何の関係もありません。しかし両者を取り合わせたことで、秋の野原でピクニックを楽しんでいる場面が想像されます。

B面のごとくに生きて蜆汁

 結城啓至さん(神戸市、83歳)の作。レコードのB面は、A面に比べて目立たない曲であることが多い。そのB面のような控えめな生き方をして、つつましく蜆汁を食す。「B面」と「蜆汁」とは何の関係もありませんが、両者を取り合わせたことで、人生に対する作者の思いが伝わってきます。

連れ添ひて共に米寿や心太

 石橋喜一さん(横手市、89歳)の作。長年連れ添った夫婦が仲よく米寿を迎えて心太を食べる。ちょっとたよりない感じもする「心太」ですが、気負わず飄々(ひょうひょう)とした風趣を感じます。

句形をスッキリさせる

夏ラムネビー玉遠く君思う

 立石千洋さん(兵庫県芦屋市、58歳)の作。遠く君を思うこととラムネの玉を取り合わせました。ラムネは夏の季語ですから「夏」は略せます。「夏」の二音を削り、さらにビー玉をラムネ玉と言い換えると句形がスッキリします。

ラムネ玉はるかに君を思うなり

読者の想像に委ねる

木蓮や指輪を捨てて歩き出す

 和気月香さん(東京都世田谷区、56歳)の作。「指輪を捨てて歩き出す」とは、もしかすると、結婚指輪を打ち捨てて新たな人生を歩み始めるという意味でしょうか? このことと木蓮の花との関係は、理屈では理解できません。ただ、何やら作者の決意めいた思いが木蓮に託されている、ということは何となく察せられます。取り合わせの句をどう読み、どう味わうかについては、読者の想像に委ねられている部分が大きいのです。