あれもこれもの「も」

(2021年12月20日 付)

 芭蕉の句をいくつか拾います。

 

 秋風や藪も畠も不破の関 芭蕉

(秋風が吹いている。藪=やぶ=も畑もどこを見ても不破の関の跡だ)

 

から鮭も空也の痩も寒の内

 (干した鮭=さけ=も、空也の痩=や=せた姿も寒の内らしい風情だ)

 

 木のもとに汁も鱠も桜かな

 (桜の下で宴をする汁物にも鱠=なます=にも花が散りかかる)

 

 近代の俳人もこんな句を詠んでいます。

 

 まゝごとの飯もおさいも土筆かな 星野立子

 (ままごとのご飯もおかずも土筆=つくし=であることよ)

 

 これらの句は二つのものを「AもBも」という形で並べました。これも一つの手法です。今回はこのような書き方をした投稿句を見て行きましょう。

思いを強く表す「も」

制服もスーツも嫌で春の月

 加藤菜々さん(由利本荘市、24歳)の作。「制服」とは「ある集団に属する人(生徒・警察官など)が着るように定められた服装。ユニホーム」(『広辞苑』)。スーツも一種の制服のようなもの。作者は春の月を見上げながら、制服やスーツに象徴される窮屈な世の中が「嫌」だと、ぼやいているのでしょうか。

 「制服とスーツが嫌で春の月」と書いてもほぼ同じ意味ですが、「制服もスーツも」のほうが強く思いが表れます。

ゆさはりやナッチョがすきでポムもすき

 京野晴妃さん(秋田技術専門校2年)の作。「ゆさはり」はユサワリと読み「ぶらんこ」の意。春の季語です。「ナッチョ」と「ポム」はアニメのキャラ。「ゆさはり」という季語の陽春の気分と、ナッチョとポムの弾んだ響きと、「AがすきでBもすき」という口調とがあいまって楽しい句になりました。「Aが好きでBも好き」といえば、まずはAが好きで、ついでにBも好きなのです。もしも両方が同じくらい好きだったら「ナッチョもポムも大好きで」と書けばよいのです。

事柄を絞る「と」

夕焼や柱も家も影一つ

 齊藤徹生さん(東京都、19歳)の作。沈む日に照らされて、柱の影と家の影とが重なり合って一つの影になっている。「柱」は軒柱のように、家の本体と離れて立っている柱かもしれません。「柱も家も」とすると、「柱も家もそれ以外も」とも読めます。柱と家と二つの事柄だけに絞って指し示すなら、

夕焼や柱と家と一つ影

という書き方も考えられます。

「も」より力強い「が」

八月の水も言葉も生臭し

 山内秀紀さん(松山市、53歳)の作。「水も言葉も」とは「水も言葉も何もかも」というのでしょう。「水」と「言葉」だけに絞るなら「八月の水と言葉と生臭し」と書けばよいのですが、この句の力強い感じを生かすならば、少しあざとい書き方にはなりますが、

八月の水が言葉が生臭し

という案も考えられます。

読者の想像に委ねる

水田に藤も車列も密となり

 原田悦子さん(大館市、72歳)の作。田んぼの一角に見事な藤が花房を密に垂らしている。藤を見に来たのか、自動車も密集している。その様子が田植どきの田水に映っている。広やかな郊外の景を詠んだ句ですが、「密」のため句が複雑になってしまいました。「密」のことは読者の想像に委ね、藤と自動車と田んぼだけに絞って詠んではいかがでしょうか。

自動車も藤も田んぼに映りけり