強調したいときの「も」

(2022年1月24日 付)

 「鬼も十八」「影も形もない」「ぐうの音も出ない」「夢にも思わなかった」「二時間も待った」のように、強調のため「も」という助詞を使うことがあります。

 芭蕉の俳句にも、強調のために「も」を用いた作例があります。

白菊の目にたてゝ見るちりなし

 清らかな白菊。目をこらしても一片の塵さえない。

草の戸住替る代ぞひなの家

 こんな草庵でも時代が移って住む人が替わると、楽しく雛を飾る家になった(「奥の細道」の旅に出るため芭蕉庵を人に譲った際の作)。

文月や六日常の夜には似ず

 七月七日は七夕。前日の六日ともなるといつもの夜とは気分が違う。

木啄きつつき庵はやぶらず夏木立

 木をつつく啄木鳥(きつつき)でさえも、夏の木立に囲まれたこの庵(芭蕉が尊敬する和尚が住んでいた庵)を壊すことはない。

月見する座にうつくしきかおなし

 月見の座は年寄りばかりで、美しい顔など一つもない。

顔に似ぬほつ句いでよはつ桜

 初桜を詠むのだ。年寄りくさい顔に似合わない俳句の一つでも出てきておくれ。

 見ての通り、芭蕉は「も」という一字をアクセントのように、巧みに用いています。さて、このような作例も念頭に置きながら、投稿句を見て行きましょう。

言葉の重複を解消する

球場の沸く歓声に花も揺れ

 寿松木(すずき)美和子さん(横手市、56歳)の作。「花」は桜。春の句です。野球の大会でしょうか。試合が白熱。沸き立つ声に応えるように桜の花が揺れるのです。「沸く」と「歓声」に重複感がありますので、次のようにされてはいかがでしょうか。

球場の沸き立つ声や花も揺れ

柔らかい言葉を選ぶ

さえずりも聞こえぬマンションへの移住

 鷹島由季さん(東北学院大4年)の作。「囀り」が春。鳥の囀りさえ聞こえないマンション(たとえば高層)に移転した、というのです。「移住」という言葉が少し硬いです。次のようにされてはいかがでしょうか。

移り住む囀り聞かぬマンションへ

切れを入れる

老犬のつぶらな目にも春映る

 浅石トキさん(鹿角市、74歳)の作。いろいろなものに春がやって来る。年寄りの犬の目の玉にも春が映っているかのようです。ここではあえて「も」を消して、「目」を強調してみましょう。句の途中に「や」の切れを入れます。

老犬のつぶらなる目や春映る

句形を安定させる

仏去り灯明も消え秋風に

 松原俊雄さん(岡山県倉敷市、75歳)の作。お盆の句と解しました。俳句では盂蘭盆会(うらぼんえ)は秋です。先人の作に「風が吹く仏来給ふけはひあり 高浜虚子」があります。虚子の句とは逆に、この句では仏が去ったのでしょう。秋風に吹かれてお灯明が消えた。下五の「に」がやや不安定なので、次のようにされてはいかがでしょうか。

仏去り灯明も消え秋の風

形を整える

雪も泣いたのかな解けて無くなった

 圷(あくつ)雄さん(秋田市、72歳)の作。解けてすっかり無くなった雪。その様子を「雪も泣いたのか」と強調しました。メルヘンですね。形の上からは、次のように直してはいかがでしょうか。

この雪も泣いたか解けて無くなった