数字で印象を鮮明に

(2022年2月21日 付)

 雞頭の十四五本もありぬべし 正岡子規

 

 子規が亡くなる2年前、病床から庭を眺めての作と思われます。病人の目に映った「十四五本」の鶏頭の印象が鮮やかです。この句の魅力は「十四五」という絶妙の数です。もっと少なければ三本、五本などと数を特定できますが、少なからぬ本数で生えている様子を表現するには「十四五」という、やや曖昧な表現がぴったりです。この句と「鶏頭の七八本」「枯菊の十四五本」とがどう違うのかと問うた人があるそうですが、「鶏頭の十四五本」のもっともらしさは動かしがたい。

 

 月の友三人を追ふ一人かな 高濱虚子

 

 月を愛でる風雅の友でしょうか。三人連れを追うように、その後をもう一人。

 

 牡丹百二百三百門一つ 阿波野青畝

 

 おびただしい牡丹の咲く庭園。その庭園に入る門はたった一つ。

 

 筍や雨粒ひとつふたつ百 藤田湘子

 

 にわかに降りつのる雨を「雨粒ひとつふたつ百」と表現しました。

 物の数をうまく詠み込むと句のイメージが鮮明になります。今回は物の数を詠み込んだ投稿句を見ていきましょう。

字余りを直す

カーネーション幾千本とてまだ足りぬ

 牧野純夫さん(秋田市、74歳)の作。母への感謝の思いを詠んだ句です。中七の字余りを直しましょう。

幾千のカーネーションもまだ足りぬ

情景を描く

ペダル止め金木犀の午後三時

 藤田陽太さん(福岡県、56歳)の作。自転車で近くの筑後川に行って詠んだそうです。「午後三時」が具体的で良いですね。金木犀(きんもくせい)のそばに自転車を止めてある情景を想像して、別の句案をお示しします。

午後三時金木犀と自転車と

文字数を減らす

膝掛や許可は十二月からの校則

 古谷祥多さん(横手市、32歳)の作。校則によれば冬期は膝掛使用可なのです。「十二月」が具体的で良いですね。もうひと頑張りして文字数を減らします。

校則の膝掛許す十二月

情景を単純化する

冬の虹二つの道を繋ぎけり

岐路に立ち一つの道に冬木立

 太田穣さん(男鹿市、56歳)の作。「依願退職する複雑な気持ち」を詠んだとのこと。「冬の虹」「冬木立」という季語がよく効いています。詠み込まれた情景を単純にする方向で直してみましょう。

道二つあり冬の虹懸かりたる

二つある道の一つや冬木立

類語を検討する

朝露や六人乗りの乳母車

 神戸みや女さん(神戸市、53歳)の作。保育士さんが園児を乗せる車を想像しました。「六人」がリアルです。添削例では「カート」と言ってみました。

朝露やカートに園児六人を

句形を整える

軽トラに九段重ねて早苗床

 芦野あきみさん(千葉県、76歳)の作。田に植える早苗を九段重ねにして荷台に載せている情景。「九段重ねて」で現場の感じが分ります。添削例では切れ字の「や」を使って句形を整えました。

軽トラに九段重ねや早苗床

分かりやすく言い換える

桜餅リズムで作り六つ七つ

 清水健彦さん(秋田市、41歳)の作。「リズムで」とは、調子よくリズミカルな手つきで作ったのでしょう。そんな心持が「六つ七つ」に表れていますが、「リズムで」が分りにくいので添削を試みます。

桜餅つくる次々六つ七つ