地名の効果を考える

(2022年3月7日 付)

 芭蕉は山や川の名を俳句に詠みこんでいます。たとえば次の句のように。

 

 涼しさやほの三日月の羽黒山はぐろさん 芭蕉

 

 「奥の細道」での作。「涼しいことよ。羽黒山の上に、ほのかに三日月が見える」。夜の暗さを思わせる「羽黒山」という地名が、三日月と響き合っています。

 

 あつみ山や吹浦かけて夕すゞみ 芭蕉

 

 「奥の細道」での作。「あつみ山から、吹浦(ふくうら)にかけて一望する夕涼みであることよ」。暑そうな名前のあつみ山と、風の吹くような名前の吹浦が相呼応しています。

 

 そのまゝよ月もたのまじ伊吹山 芭蕉

 

 「伊吹山(いぶきやま)は、月の風情を頼む必要もなく、そのままの姿でよいのだ」。

 

 六月や峰に雲置あらし山 芭蕉

 

 「暑い盛りの陰暦六月だ。嵐山の頂きの上に、置いたような雲がどっしりと据わっている」。下五に据えた「あらし山」という名所の地名が堂々としています。

 

 さみだれの空吹おとせ大井川 芭蕉

 

 「増水で川止めになった大井川よ、風を呼んで、五月雨の空を吹き落としておくれ」。

 

 芭蕉は、旅先の土地への挨拶の意を込めて山や川の名を詠みこみました。

 地名をうまく使うと、作品の奥行きが増します。今回は、地名を詠み込んだ投稿句を見ていきましょう。

地名の印象を生かす

秋深く手水冷たし岩木山

 太田穣さん(男鹿市、56歳)の作。「秋深く」(秋深し)が季語です。「冷たし」を冬の季語として用いることもありますが、この句では手水の水が冷たいという意味。季語ではなく、ふつうの言葉として使われています。この手水は岩木山神社のものでしょうか。岩木山という地名が、晩秋の寒さを強く印象づけます。

そうそうと寒夜駆けるよ最上川

 間中孔士さん(早稲田大学4年)の作。寒い冬の夜の最上川です。「駆ける」は鍛錬のために人が走っているとも読めますが、「そうそう」の語感からすると、暗闇の中を川の水が流れている様子を「駆ける」と言ったのでしょう。「そうそう」は、例えば「淙淙」などと漢字で表記すると、より引き締まった感じの字面になります。

 最上川は、以下のように、俳句や短歌によく詠まれています。

 

 五月雨さみだれをあつめて早し最上川 芭蕉

 

 暑き日を海にいれたり最上川 同

 

 最上川落葉一枚づつ流す 山口青邨

 

 最上川逆白波さかしらなみのたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも 斎藤茂吉

 

 これら先人の作品を踏まえながらも、間中さんの俳句は「寒夜駆けるよ」という弾むような調子で川の流れを詠んだところに新味があります。

季語で季節感を加える

鳥海の山は曇りて涙そうそう

 鈴木夏太さん(由利本荘市、高校1年)の作。「涙そうそう」は歌のタイトルや歌詞を踏まえたフレーズでしょう。鈴木さんが通っていた本荘東中学校の校歌には「鳥海山のすそ野をめぐり」とあります。日々親しく目にする鳥海山の曇った様子に「涙そうそう」という思いを重ねたのでしょう。

 この句に季語はありません。このままでもよいのですが、季節感が加わると、鑑賞がより深まります。この句の季節を春と仮定し、季節を入れてみましょう。字数の節約のため、「鳥海山」と書いて「ちょうかい」とルビを振ります。

鳥海山ちょうかいの春を曇るや涙そうそう