選句のポイントは?

(2022年4月4日 付)

 俳句には「選」がつきものです。新聞の読者投稿欄は、選者によって選ばれた作品が掲載されます。どんな句が選ばれるか。その判断基準は選者の頭の中にあるわけですが、選ばれて公表された作品を見ると、この選者はこういう作品を評価しているのだな、ということがうすうすわかります。

 この欄にもよく登場する俳人高浜虚子に「選は創作なり」という言葉があります。選者は、選ということを通して作品の価値を発見する。さらには作家を育成する。だから選というのは創造的な行為だというのです。では、その虚子という人はどんな選句をしたのでしょうか。

 次の四句は森川暁水(ぎょうすい)=1901~76年=の作。「ホトトギス」昭和6(1931)年9月号の虚子選入選句です。このうち○を付けた句は、後年に虚子がさらに厳選した『雑詠選集』採録句です。○が特選、無印が佳作と思えばよいでしょう。

 

○梅雨の漏りふえつゝ夜に入りにけり…(1)

 

妻起きてひとりさわげり梅雨の漏り…(2)

 

○わらうてはをられずなりぬ梅雨の漏り…(3)

 

梅雨の漏りかゝりてぬるゝ水仕かな…(4)

 

 暁水は「昭和の一茶」と称され、貧困を詠った作が得意でした。これらは梅雨の雨漏りを詠んだ作。○印の句は、事実をたんたんと詠んだ(1)と、作者の困惑した表情が彷彿(ほうふつ)とする(3)でした。いっぽう、騒ぐ妻を詠んだ(2)と、濡(ぬ)れながらの水仕(みずし)(台所の水仕事)を詠んだ(4)は、その事柄を狙って詠もうとした作意が露(あら)わなので、○に至らなかったと推察します。

 このように同じ題材の句を並べると、句の選び方がある程度わかります。今回は、同じ題材を詠んだ複数の投稿句を見比べてみましょう。

事実をたんたんと詠む

梅咲きて百七歳の叔父が逝き …(1)

大往生梅の香りに送られて  …(2)

花好きな叔父を偲ばす梅の花 …(3)

 樋渡タツ子さん(湯沢市、74歳)の作。私が選者なら、この三句では(1)を選びます。「百七」という具体的な数字が効果的。「梅咲きて~叔父が逝き」という簡潔な口調が良いですね。(1)と比べると、(2)の「大往生」「梅の香りに送られて」は演出が目立ちます。作者には言いたいことがたくさんあるわけですが、それをことさらに言おうとせず、事実だけをたんたんと詠むほうが、読者には受け入れられ易いのです。(3)は「偲ばす」が少し言い過ぎかもしれません。「偲ばす」を消してはいかがでしょうか。

梅咲くや花の好きなる叔父の逝く

素朴な表現を心がける

陽が差して賑やかに舞う寒雀 …(1)

極寒の朝に煌めく冬日差し  …(2)

屋根の雪雫となりし雨水かな …(3)

 永井喜則さん(北秋田市、63歳)の作。冬から春への移ろいを詠みました。私が選者なら、この三句では(3)を選びます。「雨水」は二十四節気の2月半ば。「屋根の雪雫となりし」は雪解けの気分を誇張することなく、そのまま詠んでいます。いっぽう(1)の「賑やかに舞う」、(2)の「煌めく」は少しばかり肩に力が入っています。たとえば次のように、より素朴な表現を試みてはいかがでしょうか。

 たくさんの寒雀が飛ぶ様子は、

日がさしていくつも飛ぶや寒雀

 極寒の朝の明るい日の光は

極寒の朝や明るく冬日あり