植物の季語あれこれ

(2022年6月6日 付)

 夏草や兵どもが夢の跡 芭蕉

 

 「奥の細道」の名句の一つ。生い茂った夏草を眼前に見つつ、ここで討ち死にした源義経に思いを馳(は)せた作です。

 「○○や兵どもが夢の跡」の○○にどのような季語を置くか。「木枯しや兵どもが夢の跡」や「名月や兵どもが夢の跡」でも句は成り立ちます。木枯しの吹きすさぶ古戦場、月光のさしわたる古戦場も魅力的ですが、芭蕉は、杜甫の「国破れて山河あり」を引きつつ、繁茂する草の生命力と対比させることで英雄の悲運を強く印象づけました。「兵どもが夢の跡」というフレーズはそれだけでは美し過ぎますが、「夏草」という植物の季語がこの句を力強い作品にしています。

 俳句の実作において、どんな季語をどう使うかという問題は避けて通れません。今回は植物の季語に着目しながら作例を見て行きましょう。

気分に合わせて選ぶ

桜の実食うてデートはいつも雨

 進藤凜華さん(仙台市、22歳)の作。サクランボの季節、このところデートはいつも雨なのです。「○○を食うてデートはいつも雨」の○○の選択問題を考えてみましょう。ここにあてはまる植物の季語はたくさんあります。「筍(たけのこ)=夏=を食うてデートはいつも雨」「夏蜜柑(みかん)=春=食うてデートはいつも雨」「白桃(秋)を食うてデートはいつも雨」「黒葡萄(ぶどう)=秋=食うてデートはいつも雨」。デートの気分や季節感などを考えると、最もピッタリくるのは「桜の実」だと思います。なお掲句、以下のように切字の「や」が使えます。

桜の実食ふやデートはいつも雨

クイズに挑戦

 
 ○○○○○食ひつつ読むや罪と罰
 
 今回は趣向を変えて、先人の句を穴埋めクイズにしてみました。○○○○○に入るのは次のどれでしょうか。「田楽(春)を」「そら豆(夏)を」「枝豆(秋)を」「落花生(秋)」「焼芋(冬)を」。答は次の通りです。
 
 落花生喰ひつゝ読むや罪と罰 高浜虚子
 
 酒の肴(さかな)ではなく、本を読みながらつまむとすれば落花生ですね。ドストエフスキーの名作を読みながらピーナツを食うところにとぼけた味わいがあります。高浜虚子には「焼芋がこぼれて田舎源氏かな」という句もあります。『偐紫(にいむらさき)田舎源氏』は江戸時代末期に人気を博した娯楽小説です。

イメージから連想する

制服の裾の余りや草青む

 岡田水澪さん(東京都、24歳)の作。制服の丈が長く、裾の布が余ってしまったのでしょう。「制服の裾の余りや藤の花」でも「制服の裾の余りや菊の花」でも一応俳句になりますが、「制服」のイメージにシックリ来るのは「草青む」です。

冬菫ふゆすみれもう好きなんて言えなくて

 京野晴妃さん(秋田市、21歳)の作。「もう好きなんて言えなくて」という気持ちをどんな季語に託すか。「紫陽花(あじさい)やもう好きなんて言えなくて」では、紫陽花の色の移ろいが心変わりを暗示しますから、作者の気持ちにはそぐわない。「チューリツプもう好きなんて言えなくて」ではチューリップが他愛(たわい)なさ過ぎる。好きなんて言えないのは、好き過ぎるのか、好きでなくなったのか。そんな屈託のある気持ちを託すのは、ひっそりと咲く冬のスミレ。
 俳句歳時記を繙(ひもと)くと、植物の季語がたくさん載っています。どの季語を使おうかと歳時記をめくって思案するのも楽しいものです。