印象は「や」の位置次第

(2022年7月18日 付)

 前回に続き、切字の「や」を見ていきます。句の途中に切れ目を入れたいときに「や」を使うわけですが、一句のどこに「や」を入れるかは考えどころです。

 

秋風やしらきの弓に弦はらん 去来

 

 作者は芭蕉の弟子。武家出身です。「秋風が吹いている。質素な白木の弓に弦(つる)を張って弓を射てみようか」という意味。この句は上五を「○○や」とする形です。

 

秋ちかき心の寄(より)や四畳半 芭蕉

 

 「秋が近いと思う風雅な心を持った人が寄り合うこの四畳半であることよ」という意味。この句は中七を「○○や」とする形です。

 「や」の位置で多いのは「秋風や」のような上五の句末、あるいは「心の寄や」のような中七の句末ですが、そうでない形もあります。

 

郭公(ほととぎす)鳴(なく)や湖水のさゝにごり 丈草

 

 作者は芭蕉の弟子。「ほととぎすが鳴いた。五月雨のため琵琶湖が少し濁っている」という意味。この句は五七五の切れ目ではなく、意味の切れ目に合わせ、中七の途中の「鳴く」という動詞に「や」を付けました。

 あまり見かけませんが、上五の途中に「や」を用いた作例もあります。

 

 死や霜の六尺の土あれば足る 加藤楸邨

 

 「人の死とは、霜の降りた六尺ほどの土に埋めれば用が足りるのだ」という意味。この句の主題は「死」です。その「死」という言葉を目立たせるために、上五の途中に「死や」という切れを設けたのです。この句のような文体はあまり見かけません。

 さて今回は、句の中の「や」の位置に着目しながら投稿句を見ていきましょう。

何を強調するのか考える

三味線の調子外れや酔芙蓉

 平野智子さん(秋田市、46歳)の作。調子外れの三味線が聞こえ、そのへんに酔芙蓉の花が咲いている。中七の句末に「や」を使った安定感のある文体です。

 同じ内容を別の文体で書いてみましょう。「三味線や調子外れに酔芙蓉」と書くと「三味線」が目立って、ちょっと浮かれた感じになります。「酔芙蓉三味線調子外れかな」のように「かな」を使う形も考えられます。この形では上五の「酔芙蓉」が目立ち、花のイメージを中心に据えた句になります。

自転車を押す君の手や夏近し

 夏井ゆいさん(新潟市、19歳)の作。この句も中七の句末に「や」を使った安定感のある文体です。この句は「自転車を押すや君の手夏近し」と書くこともできます。「君の手や」とすれば「君の手」が強調されます。「押すや」とすれば、押すという行為が強調されます。

かまきりや通せんぼうの帰り道

 田村誠さん(秋田市)の作。この句は上五の「かまきり」に「や」を付けました。ためしに「や」の位置を変えてみましょう。「かまきりが通せんぼうや帰り道」。こうすると「通せんぼう」というカマキリの行動が強調されます。

ダブる言葉を切り離す

夕焼けや浜辺の海の赤き色

 S・Nさん(湯沢市)の作。「浜辺の海」という言葉は、浜と海の意味がダブっています。そこを直すため「や」の位置を変えてみましょう。

夕焼けの浜辺や海の赤き色

 「や」を使って「浜辺」と「海」を切り離すと、句が読み易くなると思います。